SH4029 リーガルテックと弁護士法72条――第1回 弁護士法72条とAIを利用した契約業務支援サービス 松尾剛行(2022/06/15)

契約書作成・管理そのほか

リーガルテックと弁護士法72条
第1回 弁護士法72条とAIを利用した契約業務支援サービス

桃尾・松尾・難波法律事務所

弁護士 松 尾 剛 行

 

1 本連載の趣旨

 近年リーガルテック(LegalTech[1])はますます高度化している。AI等を用いて法務部門の業務を高度化する試みは全世界で注目され、2025年には約3兆円と言う巨大な市場規模になるとも言われている[2]。このリーガルテックについては、一口でどのようなものかを総括することは困難である。佐々木毅尚『リーガルオペレーション革命――リーガルテック導入ガイドライン』(商事法務、2021)は、リーガルテックを①契約書管理、②AIを利用した契約業務支援サービス、③電子契約、④コミュニケーション、⑤情報検索、⑥弁護士管理、⑦翻訳、⑧デジタルフォレンジック、⑨コンプライアンス等に分類している[3]。このような多種多様なリーガルテックは、今後大きく成長することが期待されている。また、リーガルテックの利用によってガバナンス・内部統制・コンプライアンスが高度化・効率化することも期待されている[4]。しかし、弁護士法72条がどの範囲のテクノロジーを規制しているかが不明確であると、その成長の阻害要因となり得る。すなわち法規制のグレーゾーンが幅広く存在することによって、有望な分野に対する投資や利用に対するディスインセンティブが生じる恐れがあり、その結果、ユーザがその便益を享受できなくなる可能性がある、ということである。もちろん、弁護士法72条は同時に、ユーザのための規制という側面も存在している[5]。そこで、決して、単純な、「新しいテクノロジーであれば全て弁護士法72条に違反しないとすべき」、というような話ではない。むしろどの範囲で弁護士法72条の規制を掛けることが、同条の趣旨や文言等から適切な線引きとなり、ユーザ、そして社会にとって最善であるか、という側面から検討していくべきであるところ、その「線」が不明確であれば、その萎縮効果によってテクノロジーに関する最適な量の投資やプロダクトの投入がされず、ユーザの効用が過小になってしまうのではないか、という問題意識である。

 筆者は弁護士として、AIを利用した契約業務支援サービス、情報検索、ODR、電子契約等々の様々なベンダの依頼を受けてきており、また、ユーザ側を含めると佐々木前掲書の分類するほぼ全ての類型の案件を経験させて頂いた。そして、ほとんど関連文献が存在しなかった2018年当時、上記問題意識に基づき、「リーガルテックと弁護士法に関する考察」情報ネットワーク・ローレビュー18巻(2018)(以下「2018年論文」という。)[6]を公刊させて頂いた。2018年論文は望外のご注目を頂き、例えば弁護士ドットコム社のオウンドメディアである「サインのリ・デザイン」では「リーガルテックと弁護士法」として肯定的に取り上げて頂いた[7]

 その後も、引き続き多くの関連案件を対応させて頂いているが、その中で、例えば、令和3年1月21日に離婚協議書案自動作成サービスに関するグレーゾーン解消制度に関する「確認の求めに対する回答の内容の公表」(以下「グレーゾーン回答」という。)によって「具体的な事情によっては、これらが弁護士法第72条本文に規定するその他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことに当たる可能性がないとはいえない。」[8]とされる等、グレーゾーン解消制度によって、むしろその明確性が阻害される結果になっているのではないかと思われるような現象も生じている(この点は連載第2回において取り上げるつもりである)。なお、令和4年6月6日付けで特定の事業者の特定のAIを利用した契約業務支援サービスにつきグレーゾーン回答が出ているところ、この点については、第1回の末尾で検討する。

 このような状況を踏まえ、リーガルテックの発展のためには、2018年論文で行った検討を発展させ、更に類型を細かく分類し、その類型ごとの精緻な分類を行うことが有益だろうと考えるようになった。そこで、比較的弁護士法72条の関係が深いと思われるAIを利用した契約業務支援サービス(第1回)、法律文書等作成サービス(第2回)、チャットボット法律相談サービス(第3回)、リーガルリサーチツール(第4回)及びODR(第5回)について本連載をさせていただくこととなった。

 以下では、2018年論文の議論を前提としていることから、例えば、弁護士法72条の一般的解釈については2018年論文を参照されたい。

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(まつお・たかゆき)

桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士(第一東京弁護士会)、NY州弁護士
慶應義塾大学、中央大学、学習院大学、九州大学非常勤講師(2022年現在、就任順)

主な著書に
松尾剛行=西村友海『紛争解決のためのシステム開発法務――AI・アジャイル・パッケージ開発等のトラブル対応』(法律文化社、2022) ほか

主な論文に
「リーガルテックと弁護士法に関する考察」情報ネットワーク・ローレビュー18巻(2018)、「AIとガバナンス――企業統治の高度化・効率化にAIを役立てるという観点からの検討」商事法務2297号(2022) ほか

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