リーガルテックと弁護士法72条
第4回 弁護士法72条とリーガルリサーチツール
桃尾・松尾・難波法律事務所
弁護士 松 尾 剛 行
1 リーガルリサーチと弁護士法72条
5回に渡って弁護士法72条とリーガルテックに関して検討する本連載の第4回として、以下、第1回(弁護士法72条とAIを利用した契約業務支援サービス)、第2回(弁護士法72条と法律文書等作成サービス)及び第3回(弁護士法72条とチャットボット法律相談)に引き続き、リーガルリサーチツールと弁護士法72条について説明したい。
近時リーガルリサーチツールの分野は極めて迅速に発展している。その結果としてユーザは調査が格段に便利になる等の便益を享受している。特に、これまでは紙ベースで六法、書籍や雑誌、判例集等を調べていたのが、デジタル媒体での検索・閲覧が可能となる範囲が広がり、新型コロナウイルス対応としての在宅ワーク等の理由で事務所・会社以外におけるリサーチが必要となっている現下の環境に適合している。
また、単純なキーワード検索でデータベースを探すという従来のやり方を超え、自然言語検索、AIを利用した検索キーワードのサジェスト、AIを利用した現在確認中の資料と類似する資料の検索・提示等、できるだけ直感的かつ迅速な検索が可能となるような技術を各社が工夫している。
このように、リーガルリサーチツールが発展すること自体はユーザの便益という観点からは素晴らしいことであって、筆者を含む多くの弁護士や法務関係者がその便益を享受しているのではないか。
しかし、同時にそのレベルが高くなればなるほど、単なるリーガルリサーチツールではなく、例えば鑑定該当性といった弁護士法72条の問題が出てくるところである。
AI技術を用いて、紛争当事者が入力したフリーワードに応じて関連する法令、裁判例が自動的に提示され、その内容を要約したり、さらには当該事案について裁判予測を示すような行為は、もはや一般的な法情報の提供にとどまるのか否かが問題となり、弁護士法の問題が生じ得ることを示唆する文献も存在する[1]。
もっとも、以下具体的に検討するとおり、少なくとも現在のリーガルリサーチツールで弁護士法72条に違反するものは見当たらないし、今後リーガルリサーチツールが発展するとしても、かなりの多くの類型が弁護士法72条に違反しない形で発展可能であると考える。
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(まつお・たかゆき)
桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士(第一東京弁護士会)、NY州弁護士
慶應義塾大学、中央大学、学習院大学、九州大学非常勤講師(2022年現在、就任順)
主な著書に
松尾剛行=西村友海『紛争解決のためのシステム開発法務――AI・アジャイル・パッケージ開発等のトラブル対応』(法律文化社、2022) ほか
主な論文に
「リーガルテックと弁護士法に関する考察」情報ネットワーク・ローレビュー18巻(2018)、「AIとガバナンス――企業統治の高度化・効率化にAIを役立てるという観点からの検討」商事法務2297号(2022) ほか