SH4030 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第60回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(4) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/06/16)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第60回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(4)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第60回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(4)

3 DAABの価値

⑴ 仲裁との比較――紛争の効率的解決、さらには紛争の予防、さらには収益貢献

 前回まで、DAABの概要と、DAABに関するFIDICの規定内容について解説した。今回以降は、DAABを効果的に活用するという観点から、DAABの価値とその要因を確認した上で、DAABの価値を生かすために留意するべき点を解説する。

 最初は、DAABの一つ目の価値である、紛争の効率的解決である。

 第51回において述べたとおり、法的紛争の解決には、一般的には次の4段階があり、下の段階に進めば進むほど、紛争解決のコスト(労力、時間、費用等)は増加する傾向にある。

  1. ① 当事者間での和解交渉
  2. ② 代理人弁護士間の和解交渉
  3. ③ 調停人等の第三者を介した和解交渉のための手続
  4. ④ 訴訟、仲裁等の第三者の強制力ある判断を求める手続

 DAABは、二つの手続に対応しており、一つが、当事者が合意した場合に行われる、和解協議あっせんである。これは、上記の4段階のうち③に相当するものであり、④の仲裁と比較すると、紛争解決のコストは少ないものである。

 DAABが対応するもう一つの手続は、判断(decision)であり、一見すると、上記の4段階のうち、仲裁と同じく④に相当すると思われる。しかしながら、実際には、この判断も、仲裁と比べると、紛争解決コストは明らかに少ないものである。

 その上、DAABは、紛争の予防に資するものであり、さらには、プロジェクトの収益面にプラスの影響を及ぼす。すなわち、FIDICが想定するような大規模な建設・インフラ工事のプロジェクトにおける紛争の多くは、遅延ないしその他のトラブルにおける損害(収益減少、コスト増加等)の分担についてである。DAABの存在によって、遅延ないしその他のトラブルが回避できる可能性が高まり、また、仮に回避できないとしてもその損害がより少ないものとなる。これは、紛争の予防ないし軽減であり、また、プロジェクトの収益面での貢献である。こういった価値は、仲裁では到底実現できるものではない。

 なお、一部のEmployer(発注者)は、DAABがContractorに一方的に有利なプロセスではないかとの疑いを持っているが、これは正しくない。DAABの存在は、遅延その他のトラブルを予防し、損害を回避ないし軽減するのであり、Employerの収益面にとってもプラスである。そうであるからこそ、DBの発祥地である米国においては、各州の道路局等の公共工事におけるEmployerが、DBの推進者である。

 以上のとおり、DAABには、仲裁には見られない、明確な独自の価値がある。

 

⑵ 関係者への説明における価値

 もう一つのDAABの価値は、関係者への説明において発揮される。

 紛争は、当事者である企業にとって、経済的その他の意味において、重要となり得る。そのため、紛争に関する情報を当該企業の関係者に的確に伝えることが、必要になることが多い。

 したがって、関係者への説明は重要なことであるが、他方において、第51回において述べたとおり、大きなコスト要因ともなり得るのであり、合理的かつ効果的に関係者への説明を行うことは、実は、紛争解決における重要なテーマである。

 この観点でも、DAABが価値を持つことがあり、かつ、その様な場面が増える傾向にある。すなわち、DAABメンバーの中立性、公正性、専門性、経験、信頼性等の裏付けにより、プロジェクトのステークホルダーへの説明、説得に、DAABの非公式の意見(Informal Opinion)が利用され、効果を発揮する例がある。ここでいうステークホルダーの例としては、PFI/PPP等の出資者、公共工事における会計検査院、財務省、発注者の上位組織である例えば公共事業省等がある。

 特に会計検査院への説明、説得は、Contractorへの支払を実行し、工事を円滑に進めるために必須となり得るところ、これが容易に進まないことがある。例えば、ほとんどの国では、会計検査院が追加費用の支払に厳しく、その国の国内法で認められない追加費用は、FIDICで認められるものでも拒絶することがある。その障壁が、DAABのInformal Opinionよって乗り越えられ得るのであり、これは、DAABの大きな価値である。

 DAABは、資金繰りに貢献すると言われるが、これはその一つの場面である。円滑な資金繰りは、全てのビジネスにおいて決定的に重要な価値であり、FIDICが想定する大規模な建設・インフラ工事においても、もちろん妥当する。DAABの資金繰りへの貢献は、工事ないしプロジェクトの成功に向けた、大きな貢献と評価し得る。

 以上、DAABの価値について述べた。次回以降は、その価値の要因について述べることとする。

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