国交省、「宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」を公表
――リスクベース・アプローチによる対応事項を具体化・明確化、8月3日まで意見募集――
国土交通省不動産・建設経済局不動産業課は7月4日、「宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」を公表した。8月3日まで意見募集を行う。
「I 基本的考え方」「II リスクベース・アプローチ」「III 管理体制とその有効性の検証・見直し」「IV その他」の全4章で構成しており、表紙・目次を含めた全体で22頁建て。「I 基本的考え方」では、まず「I−1 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る基本的考え方」においておおむね次の6項目を述べ、概括的な理解を可能としている。
(ア)リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与リスク管理体制の構築・維持が宅地建物取引業者にとっても実施していくべき事項であること、(イ)宅地建物取引業者が取り扱う不動産はマネー・ローンダリング等に悪用される危険性があり、近年では国内外の犯罪組織等が犯罪による収益の形態を変換する目的で不動産取引を悪用する危険性もあること、(ウ)テロの脅威が国境を越えて広がっていることを踏まえ、宅地建物取引業者においてはテロリストへの資金供与に自らが利用され得るという認識の下、実効的な管理体制を構築しなければならないこと、(エ)大量破壊兵器の拡散に対する資金供与の防止のための対応も含め、外為法や国際テロリスト財産凍結法をはじめとする国内外の法規制等も考慮する必要があること、(オ)このようなマネロン・テロ資金供与対策が営業部門において有効に機能するよう経営陣が主導的に関与して地域・部門横断的なガバナンスを確立した上で関係部署が継続的に取組みを進める必要があること、(カ)経営戦略の中で将来に渡りその業務がマネロン・テロ資金供与に利用されることのないよう先を見据えた判断として管理体制の強化等を図るとともに、その方針・手続・計画や進捗状況等に関して顧客・監督当局等を含む幅広い関係者に対し説明責任を果たしていくことが求められること(ガイドライン案2頁以下)。
そのうえで、本ガイドラインを「各宅地建物取引業者において『対応に努めるべき事項』『対応が期待される事項』を明確化するものである」と位置付けており、より具体的に「I−4 本ガイドラインの位置付けと監督上の対応」では、(A)「以下において『対応に努めるべき事項』に係る体制整備を前提に、特定の場面や、一定の規模・業容等を擁する宅地建物取引業者の対応について、より強固なマネロン・テロ資金供与リスク管理体制の構築の観点から対応することが望ましいと考えられる事項を『対応が期待される事項』として記載している」とした。脚注2(ガイドライン案4頁)によると、「対応が期待される事項」の対象となる宅地建物取引業者としては現状「コンプライアンス部門や法令部門等の管理部門が設けられている又は、海外の顧客との取引が多い宅地建物取引業者」が想定される。
また(B)「本ガイドラインにおいては、犯収法のみならずFATFからの勧告も包含しながら、宅地建物取引業者におけるリスクベース・アプローチに基づくマネロン・テロ資金供与リスクの特定・評価・低減に係る措置及びその実効性を確保するために『対応に努めるべき事項』『対応が期待される事項』等を記載している」とする。なお、本ガイドラインで言及していない部分については「不動産業における犯罪収益移転防止及び反社会勢力による被害防止のための連絡協議会」が刊行する「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック」も参照すべきとされている(以上、I−4に係る記載についてガイドライン案4頁以下)。
第2章「II リスクベース・アプローチ」では「II−1 リスクベース・アプローチの意義」について解説した上で「II−2 リスクの特定・評価・低減」に関して順を追って説明。たとえば「(3)リスクの低減」においては(i)リスク低減措置の意義を説いたのち、(ii)顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)、(iii)取引モニタリング・フィルタリング、(iv)確認及び取引記録の作成・保存、(v)疑わしい取引の届出、(vi)ITシステムの活用、(vii)データ管理(データ・ガバナンス)の各局面ごとに【対応に努めるべき事項】もしくは【対応が期待される事項】またはこれらの双方を箇条書きで示す。
(ii)顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)における【対応に努めるべき事項】をみると、ここでは「① 自らが行ったリスクの特定・評価に基づいて、リスクが高いと思われる顧客・取引とそれへの対応を類型的・具体的に判断することができるよう、顧客の受入れに関する方針を定めること」「② 前記①の顧客との取引に関する方針の策定に当たっては、顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容のほか、例えば、経歴、資産・収入の状況や資金源、居住国等、顧客が取引する不動産等、顧客に関する様々な情報を勘案すること」に始まり、計11項目を掲出。CDDの際の【対応が期待される事項】としては「法人の顧客についてのリスク評価に当たっては、当該法人のみならず当該法人が形成しているグループも含め、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与リスクを勘案すること」が挙げられる(ガイドライン案9頁以下)。
第3章「III 管理体制とその有効性の検証・見直し」については「III−1 マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の策定・実施・検証・見直し(PDCA)」「III−2 経営陣の関与・理解」「III−3 経営管理」「III−4 グループベースの管理体制」「III−5 宅地建物取引業従事者の確保、育成等」により構成した。
「III−2 経営陣の関与・理解」では冒頭「宅地建物取引業者のマネロン・テロ資金供与リスクは、自らの経営戦略等を踏まえた業務運営により増減する」こと、また「マネロン・テロ資金供与対策の機能不全は、取引の解消といった経営上の問題に直結する」ことなどを指摘。トップダウンにより経営陣としての明確な姿勢・方針を打ち出すことが営業部門を含めた全従事者に対して意識を浸透させる上で非常に重要となることを述べ、【対応に努めるべき事項】として6項目、【対応が期待される事項】として2項目を掲げている(ガイドライン案16頁以下)。
第4章「IV その他」は、個別の宅地建物取引業者に対するものでなく「IV−1 業界団体の役割」となる。ここでは業界団体として宅地建物取引業者に対し(1)マネロン・テロ資金供与に係る①最新の動向、②課題・解決策のあり方や事例、③業界内における取組み等についての情報提供を行うこと、(2)宅地建物取引業者のマネロン・テロ資金供与対策の実施・高度化に係る支援を行うことについて、宅地建物取引業界の特性を踏まえつつ中心的な役割を果たすことを求めている(ガイドライン案21頁以下)。