SH3575 経産省、大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書 松本 拓/舛谷寅彦(2021/04/13)

組織法務M&A・組織再編(買収防衛含む)

経産省、大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 松 本   拓

弁護士 舛 谷 寅 彦

 

1 はじめに

 2021年3月26日、経済産業省は、企業の成長投資・オープンイノベーション促進に向けた環境整備のための調査研究成果として、「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」を公開した。

 本調査報告書は、日本の多くの大企業において、自前主義の傾向が強く、自社の成長戦略の中にスタートアップとのオープンイノベーションの活用を組み込めていない現状を踏まえ、オープンイノベーションの一つの手段として「大企業等の事業会社とスタートアップのM&A」に着目したものである。本調査報告書においては、大企業等の事業会社とスタートアップのM&Aにおける課題および対応策として、「大企業とスタートアップの両者がM&A時のバリュエーションを適切に評価するための考え方」(バリュエーション)および「M&Aの有用性を投資家に理解してもらうためのIRのあり方」(IR)について主に検討されている。

 

2. 大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書の概要

 ⑴ スタートアップに対するM&Aの現状[1]

 本調査報告書においては、日本の大企業は一般的に自前主義の傾向が強く、多くの企業が自社の成長戦略の中にM&Aによるオープンイノベーションの活用を組み込めていないとの課題が指摘されている。実際、ベンチャーキャピタルの投資先のエグジット手法に占めるM&Aの件数(2019年)は、米国においては918件中836件(91%)を占めるが、わが国においては、131件中42件(32%)にとどまっており、米国においてGAFAMに代表される大企業がスタートアップに対する積極的なM&Aを行い、非連続的な成長を遂げていることと対照的な状況にある。

 わが国においても、大企業が自社の成長戦略としてM&Aを採用することで、①オープンイノベーションによる大企業(買収企業)の中長期的な価値向上に繋がり[2]、また、②スタートアップ(対象会社)の安定的な成長に資する選択肢となり得ると指摘されている。とりわけ、先行投資にかかる資金需要が大きく、かつ、短期間の内に利益をあげることが困難な業種・業態のスタートアップにとっては、IPO等によるエグジットのハードルが高いことから、M&Aによるエグジットが有用である点が指摘されている。

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(まつもと・たく)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2005年東京大学教育学部卒業。2008年早稲田大学法科大学院卒業。2009 年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2016年コロンビア大学・ロースクール(LLM)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。主要な業務分野は,①M&A・投資・一般企業法務,②インドネシア等の海外及び③競争法関連。近時は,④スタートアップ法務・投資,⑤スポーツ及び⑥教育関連の業務にも力を入れている。2012年インドネシアのSoewito Suhardiman Eddymurthy Kardono法律事務所,2016年~2017年米国のSeward & Kissel法律事務所勤務。

 

(ますたに・とらひこ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2011年東京大学法学部卒業。2013年東京大学法科大学院卒業。2015年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2016年~2018年国内大手証券会社M&Aアドバイザリー部門勤務。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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