東証、「IPO等に関する見直しの方針について」を発表
――スタートアップに多様な上場手段を提供する観点、諸施策の検討方針・状況を整理して明らかに――
東京証券取引所は8月24日、「IPO等に関する見直しの方針について」を発表した。
スタートアップに多様な新規上場手段を提供する観点からIPO(新規株式公開)などに関する次の諸施策について「順次、検討を進めていく」とするもので、各施策に関する「具体的な対応事項」を併せて明らかにしている。(1)ディープテック企業に関する上場審査、(2)IPOプロセス(上場日程の設定等)、(3)ダイレクトリスティング、(4)引受証券会社の新規参入、(5)スピンオフを行う場合の当事会社の新規上場。また(6)その他として、「引き続き検討」とするSPACを始め、全7項目を掲出した。
関連資料を各項目の補足説明として織り込むとともに、公表資料の末尾には「参考資料」とし、背景にある政府の閣議決定と公正取引委員会の取組みを掲げている(公取委公表時の解説として、SH3905 公取委、「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について」調査結果を公表 藤並知憲(2022/02/10)参照)。IPOを巡っては日本証券業協会・エクイティ分科会のもとに設置された「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」(主査・神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)の動向も確認しておきたい(本年2月の報告書公表について、SH3931 日証協、IPO時の公開価格設定プロセスのあり方について報告書を取りまとめ――計6回の会合を経てワーキング・グループ報告書が公表、改善策は6月から実施へ (2022/03/09)既報)。
今次発表から上記(1)をみると、いわゆるディープテック企業を「宇宙、素材、ヘルスケアなど先端的な領域において新技術を活用して成長を目指す研究開発型企業」と定義しており、今後方針として、相対的に企業価値評価が困難である特性を踏まえ「上場審査及びリスク情報等の開示について検討を進める」とされている。具体的な対応事項としては、①機関投資家等から相応の中長期的な投資を受けている場合には当該投資判断に当たって得られた評価を上場審査において活用、②事業内容、成長可能性および実現するための事業計画、事業リスクなどに関して想定される開示事項の整理――の2点を挙げた。
上記(2)のIPOプロセスに関しては、日証協で検討が行われる公開価格の決定プロセスなどの見直し内容を踏まえ「上場日程の柔軟化に向けて、新規上場申請日、上場承認日及び上場日の設定の自由度を高めるための検討を進める」とする。具体的な対応事項は次の3点。①有価証券届出書を上場承認前に提出する「S-1方式」を活用する場合や上場承認後に上場日を変更する場合などの実務プロセスの整理、②定時株主総会をまたぐ上場審査の円滑化、③新規上場時における業績予想開示の取扱いの明確化。
7つの項目を取りまとめた上記(6)その他には、①SPACのほか、②グロース市場におけるM&A、③地域発企業のIPO、④海外クロスボーダー企業のIPO、⑤特定投資家、⑥初値形成、⑦入札制度――を取り込み、今後の検討方針を明らかにした。たとえば②では、グロース市場の債務超過に係る上場維持基準について、減損リスクを念頭に積極的なM&Aが阻害される要因となっているとの指摘を踏まえ「当該基準の在り方を検討」する。掲出項目ごと、各界の関係者におかれては適宜参考とされたい。