ベトナム:食品安全に関する規制の改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナム弁護士 Hoai Truong
先日、保健省は、食品安全に関する規制の改廃に関する通達案を保健省のホームページなどで公表し、9月25日を期限とするパブリックコメント手続きに付している。
同通達案は、以下の通達等を改廃するものである。
- ① 食品添加物の管理・使用に関する通達第24/2019/TT-BYT号
- ② 「食品中の生物学的汚染及び化学的汚染の上限に関する規制」の公布に関する決定第46/2007/QĐ-BYT号
- ③ サプリメントの生産と取引における適正製造基準(GMP)に関するガイドラインとなる通達第18/2019/TT-BYT号
- ④ 機能性食品の製品管理に関する通達第43/2014/TT-BYT号
- ⑤ 保健省の管理下にある食品の生産及び売買における食品安全検査活動を規定する通達第48/2015/TT-BYT号
変更される規制の主な内容は、食品添加物の管理・使用、機能性食品の管理、輸入機能性食品の適正製造基準(GMP)、生産・経営における食品安全に関する規定などである。
以下では、今回の改正で特に実務上重要と考えられる点を概説する。
1 食品添加物の管理及び使用
通達案は、食品に使用される香料(食品添加物の一種)の範囲を以下のように拡大している。
現行の規制内容 |
通達案における規制内容 |
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また、通達案には、以下の変更が認められる。
- 食品添加物につき、通達第24/2019/TT-BYT号の付録2A号(食品への食品添加物の使用の最大限)、付録3号(GMPに従って使用される食品添加物及び使用対象食品リスト)、付録4号(付録2A号及び付録3号の適用対象となる食品のグループ)をCodex Alimentarius Commission(CAC)の最新基準[1]のテーブル1 (Table 1) 、テーブル3 (Table 3) 及び付録B号 (Annex B) に応じて更新していること。
- 食品添加物の使用は、通達第24/2019/TT-BYT号に従う他、CACの基準に従って使用することができるとしていること。
- 第24/2019/TT-BYT号の付録2B号(食品への、CODEX STAN 192-1995(2018年)基準に定められていない食品添加物の使用の最大限)に19の食品添加物を追加していること。
2 輸入サプリメントに対するGMPの適用及びGMPに適合した、食品安全基準を満たしている施設である証明書(Giấy chứng nhận cơ sở đủ điều kiện an toàn thực phẩm đạt yêu cầu GMP)の相当証明書の適用
現行の通達第18/2019/TT-BYT号によれば、輸入されるサプリメント(ベトナム語では「thực phẩm bảo vệ sức khỏe」であるが、ビタミンなどの成分が濃縮された錠剤やカプセル形態のものを意味する。)は、生産国の管轄機関等により、サプリメントの生産施設に対するGMP適合証明書(Giấy chứng nhận thực hành sản xuất tốt (GMP) đối với cơ sở sản xuất sản phẩm thực phẩm bảo vệ sức khỏe)又は、剤形が輸入サプリメントの剤形に対応する漢方薬・伝統的な医薬品に対するGMP適合証明書又は評価書(Giấy chứng nhận hoặc đánh giá đáp ứng Thực hành tốt sản xuất đối với thuốc dược liệu, thuốc cổ truyền có dạng bào chế tương ứng với dạng bào chế của sản phẩm thực phẩm bảo vệ sức khỏe nhập khẩu)が給付された施設で生産される必要がある。
通達案では、上記のように証明書の種類を定めず、証明内容を定めることにしている。具体的には、輸入サプリメントにつき、次のいずれかの内容が記載された、剤形が輸入サプリメントの剤形に対応する証明書類が給付された施設で生産される必要があるとしており、国際的な基準が多く導入されている。
- GMPに適合したこと。
- HACCP – Hazard Analysis and Critical Control Pointの基準に適合したこと。
- International Organization for Standardization 22000の基準に適合したこと。
- IFS – International Food Standardの基準に適合したこと。
- BRC – British Retailer Consortiumの食品安全に関するグローバル基準に適合したこと。
- FSSC 22000 – Food Safety System Certification 22000の基準に適合したこと。
また、現行の通達第18/2019/TT-BYT号では、必要となる証明書の発行及び認証を行わない国・領域については、保健省が、GMPの原則・規則に対する輸入食品に関する情報の適切性を評価するための専門家評議会を設立しなければならないと定めている(通達第18/2019/TT-BYT号第4条)が、通達案は、この内容を廃止していた。結果として、上記の内容の証明書類は、生産国の管轄機関等により発行したものでなければならない。
3 機能性食品の管理
機能性食品の管理について、通達案は、通達第43/2014/TT-BYT号を以下の点で修正している。
- 2018年に公布された食品安全衛生法のガイドラインである政令第15/2018/NĐ-CP号では、食品に関して、2010年食品安全衛生法に定める基準適合宣言(Công bố hợp quy)手続き(当局に基準適合宣言書を提出する手続き)に代えて、商品自主開示(Tự công bố sản phẩm)手続き(食品の生産・経営者が、マスメディア、自らのウェブサイト又は本社で開示書を自ら開示する手続き)を採用した。その変更に応じて、通達案も通達第43/2014/TT-BYT号に定める機能性食品の基準適合宣言手続きを商品自主開示手続きに変更した。また、開示手順及び開示書の登録手続きなどは、政令第38/2012/NĐ-CP号及び通達第19/2012/TT-BYT号ではなく、画一的に政令第15/2018/NĐ-CP号に従うとしている。
- 現行の通達第43/2014/TT-BYT号によれば、機能性食品の人の健康に対する機能の試験は、医学についての科学研究機能がある施設で行えば良いとされているのに対して、通達案によれば、当該試験は、通達第04/2020/TT-BYT号に定める人間が関わる生物医学研究(Research involving human participants)として、倫理評議会の監督の下に実行する必要があるとしている。また、その試験が外国で行われる場合、現行の通達第43/2014/TT-BYT号は、①当該国の管轄機関に認証された施設で行われた試験、又は②科学雑誌に掲載される試験結果のいずれもを認めているが、通達案では、②を認めていない。
- 通達案は、通達第43/2014/TT-BYT号付録01号(ベトナム人の栄養推奨量(Recommended dietary allowance又はRecommended Nutrition Intakes))及び付録02号(Tolerable Upper Intake Level)を廃止した。こちらは、機能性食品の栄養成分(Nutrient content claims)などの開示基準として使用されているものである。今後国立栄養研究所が新たなものを作成し、公布するとしている。
- 通達案は、機能性食品の試験、ラベルの表示、広告、生産・営業条件、使用案内、安全を確保していない機能性食品の回収・処分に関する規定を削除している。これらの規定については、食品安全衛生法、広告法、ラベル表示に関する法令に一般規定が定められているため、今後そちらの一般規定が適用されるという趣旨であると考えられる。
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
(Hoai・Truong)
2013年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、2019年に名古屋大学大学院法学研究科にて法学博士号を取得。翌年ベトナム弁護士資格を取得し、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。日越双方の法律に関する知識を活かして、ベトナムで事業活動を行う日本企業へのベトナム法のアドバイスを行っている。
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