わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(6)
成城大学法学部
教授 山 田 剛 志
バークレイズ証券株式会社
金融法人部長・マネジング・ディレクター 井 上 健
4. アクティビスト・ファンドからのアプローチと問題点
(2) ウルフパックへの対抗策と大量保有報告書の問題点
アメリカでは、ウルフパックと呼ばれるアクティビスト・ファンドによる秘密裏の多数派工作が問題となっている。アクティビスト・ファンドが対象会社に対して、様々な経営改善要求を主張する前後において、水面下で他のファンド等と連携を図り、議決権ベースで相当数の合意を取り付け、対象企業に対する影響力を高めることがよく見られる。その結果として、株主総会における議決権争奪戦になった場合にアクティビスト・ファンド側が勝利する、または、アクティビスト・ファンドの主張が認められる形で和解するケースが散見される。
この問題は、対象企業の経営陣及び一般株主に対して、十分な情報開示がなされないままに、アクティビスト・ファンド及びそれと緊密な連携関係を有する者が、合算して大きな議決権を持つことの問題と言える。経営陣が気づいたときには、議決権争奪戦を制するほどの大きな議決権をグループ全体として持たれてしまい、経営の重要事項(CEOの交代、取締役の選任等)について様々な圧力を受けることになる。このような状況に対して適切な規制がないと、アクティビスト・ファンド等による「法外な要求」が認められてしまう可能性があり、経営陣の交代など会社経営に重大な影響を与える恐れがある。
また、一般株主とウルフパックの参加者の間に、大きな情報格差が生じることとなり、一般株主の利益が損なわれることとなる。すなわちウルフパックの参加者は、株価が低いうちに、対象会社に一定の影響力を及ぼすほどの大量の株式を取得することができ(Creeping Control)、コントロール・プレミアムを支払うことなく、グループ全体として一定の支配力を取得することになる。その結果、ウルフパック参加者には株価の超過収益が発生し、リスクなく収益を上げることができる。これは、いわばインサイダー取引類似の不衡平を株主間に生じさせることとなる。
この問題については、わが国における大量保有報告書またはアメリカにおける1934年取引所法13条(D)項(以下13D項とする)に基づく規制の在り方を含め、法的な検討をする必要があると考えられる。
わが国の大量保有報告書制度は、投資家による株式保有が発行済株式の5%を超えてから、(アメリカより短い)5営業日以内(金融商品取引法27条の23第1項)に報告する義務を課しているため、アメリカよりはウルフパックを組成しにくくなると考えらえる面もあるが、規制としてこれで十分とはいえない。わが国でも、アクティビスト・ファンドによる大量保有報告書の提出前から、他の機関投資家やヘッジファンド等と水面下で連携をして、株式取得を進めるケースは考えられないことではない。
なお、わが国金融商品取引法167条における外部情報に基づく『株式買い集め者』及び買い集め者と一定の関係にあるものによる証券取引を禁止しており、わが国でウルフパックが行われた場合、同条に違反するか慎重な検討が必要であろう。