SH4188 中国:改正中国独禁法の要点――どこが日本企業にとって重要か(2/4) 鹿はせる(2022/11/08)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

中国:改正中国独禁法の要点
どこが日本企業にとって重要か(2/4)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

(承前)

  1.   ② 審査期間の中断(8月1日から施行済み)
  2.    旧中国独禁法において、企業結合の審査期間は一次審査(30日)、二次審査(90日)及び三次審査(60日)に分けられ、旧法の下では一度審査がスタートすれば中断することはなく、「最大180日」とされている。これに対して、改正中国独禁法では、(i)事業者が規定に従った書類、資料を提出しない場合、(ii)企業結合審査に重大な影響を与える新しい事実及び状況が生じた場合、(iii)問題解消措置に関し更に検討が必要な場合で、事業者の同意が得られる場合のいずれかの場合に、競争当局が事業者に書面通知により審査期間を中断することができる条項が追加された(改正法第32条)。
  3.    本改正により、これまで時計が止まらなかった審査期間が中断できるようになり、中国独禁法の企業結合審査が長期化するおそれがないか懸念される。しかし、現在でも一次審査前には届出の受理に関する事実上の審査(立案前審査と呼ばれる)が行われ、特に通常審査案件では複雑な案件の場合には2か月超に及ぶこともある。また、複雑な案件で審査が長期化し、三次審査に至っても審査日数が足りなくなった場合には、一旦事業者に届出を撤回させて再提出させるいわゆるpull and refileも行われてきたため、旧法の下でも「最大180日」は絶対的なものではなかった。実務上、審査期間がどの程度長期化するかは、当該企業結合案件自体の複雑さの他に、競争当局であるSAMRのその時々の処理件数及び人員の多寡や、企業結合の関わる事業分野のセンシティビティ、SAMRや欧米当局等で並行して審査されている同一分野の案件の有無等によって異なり[1]、法令上審査期間の中断が認められるか否かだけでは決まらない。本改正が審査期間の長期化をもたらすものかどうかは、改正後の実務運用を見守る必要がある[2]
     
  4.   ③ 届出基準を満たさない企業結合の届出・調査(8月1日から施行済み)
  5.    旧中国独禁法では、企業結合の当事者である各事業者について、上記①で記載した中国国内売上高及び全世界売上高が届出基準を満たした場合に届出義務を課しているが、改正法では、届出基準を満たさない案件についても、「当該企業結合が競争を制限、排除する効果を有する又は有するおそれがあると認められる証拠がある場合」には、当局は当事者に対して届出を求めることができ、当事者が応じない場合調査を行うことができるとする条項が追加された(改正法第26条第2項及び第3項)。

この記事はプレミアム向けの有料記事です
ログインしてご覧ください


(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました