SH4207 ベトナム:労働法Q&A ベトナム従業員に対する親会社株式の付与 井上皓子/Pay Thi Dung(2022/11/22)

そのほか労働法

ベトナム:労働法Q&A ベトナム従業員に対する親会社株式の付与

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

ベトナム弁護士 Pay Thi Dung 

 

Q:日本のベンチャー企業である当社は、日本での株式上場を目指しています。当社はベトナムに子会社を有しており、日本での上場の恩恵をベトナム子会社の従業員にも与えるべく、今般、彼らにも日本の親会社の株式を付与したいと考えています。どのように実施したら良いでしょうか?

 

A:このような株式の付与は可能ですが、手続きは複雑です。詳細は以下のとおりです。

 

1 個人が外国に間接投資することが認められる場合

 ベトナム法上、ベトナム居住者による対外投資は、海外への資金流失防止の観点から、ベトナム国家銀行により厳格に管理されています。ベトナム居住者が会社の経営権に影響しない範囲で外国企業の株式を取得することは、「外国への間接投資」に該当しますが(ベトナム投資法第52条1項d号、政令第135/2015/ND-CP号(「政令135号」)、個人による外国への間接投資は原則として認められていません。ただし、その唯一の例外として「外国で発行された株式の付与プログラム」に参加する形が認められています(政令135号第5条1項、政令135号の施行通達第10/2016/TT-NHNN(「通達10号」)第7条)。したがって、ベトナム子会社の従業員に親会社株式を付与する場合は、このプログラムに該当する形で、必要な手続きを踏んで行う必要があります。

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2 要件

 ①実施主体:通達10号において、ベトナム居住者である個人が外国法人の株式を取得することができる「外国で発行された株式の付与プログラム」を実施することができる機関は、「外国の法令に基づいて設立され、ベトナムに営業拠点(駐在員事務所、支店、現地法人又はBCC契約(事業協力契約)の外国当事者の管理事務所)を有する団体」の「ベトナムの営業拠点」とされています。ベトナムに子会社を設立している日本の親会社の場合、ベトナム子会社が実施主体となります。

 ②付与対象者:通達10号では、付与対象者は「ベトナムにおける外国機関で就労しているベトナム国籍の労働者」でなければならないと規定しています。ここでいう「ベトナムにおける外国機関」が何を指すのか文言上必ずしも明確ではないものの、素直に読めば、「外国機関のベトナムにおける営業拠点」ではなく「外国機関」とされている以上、外国の親会社に直接雇用されている者を指すようにも思われます。しかし、そのような解釈はプログラムの趣旨からしても妥当とは思われませんし、プログラムの実施主体がベトナム現地拠点であることとも矛盾します。国家銀行によれば、これまでの実務においても、その対象者としては、ベトナム現地拠点で就労しているベトナム人従業員のみが認められているようです。

 例えば、外国の親会社で採用され、社内異動の形式でベトナム子会社に出向しているベトナム人従業員等を対象とする場合には、契約形態の確認等を含め、個別に国家銀行と相談する必要があります。

 ③付与の対象:普通株式のほか、普通株式の新株予約権も対象とすることができます。

 

3 実施手続き

 ①登録・審査:プログラムを実施するには、まず、ベトナム現地拠点が、プログラムの実施内容について国家銀行に登録し、国家銀行から登録承認を取得する必要があります。この登録手続きにおいては、国家銀行による実質的かつ慎重な審査が行われているようですが、承認された実例もすでに複数あるようです。

 ②口座開設:登録完了後、ベトナム現地拠点は、国家銀行から付与されたプログラム登録証明書の写しをベトナムで外国為替サービスを提供することが許可されている銀行(外国銀行のベトナム支店でも可)に提出し、プログラム実施のための外貨口座を開設する必要があります。プログラムに関連するすべての越境送金は、この銀行口座を通じて行われる必要があります。対象となる従業員が、自己の給与その他の資産を使って新たに株式等を購入したり、株式等を外国で売却する場合にも、すべてこの銀行口座を介して行われなければなりません(通達10号第10条)。

 ③国家銀行への報告:プログラム実施期間中、ベトナム現地拠点は、プログラムの実施状況及び銀行口座への送金の状況等を記載した報告書を四半期ごとに国家銀行に提出する必要があります。また、銀行口座の変更やプログラムの終了など、プログラムに重大な変更があった場合は、都度、国家銀行に通知する必要があります。

 

4 賃金への充当の可否

 ベトナム労働法において、賃金は「金員」を指すとされており、原則としてベトナムドンによって、期日に満額を支払う義務があるとされています。そのため、本来は現金で受領しなければならない給与の一部を、現金の代わりに、このプログラムを通じた株式等で付与する場合、この労働法の規制に反する可能性があります。

 この点についてのベトナム法上の議論はまだ十分に尽くされていないように思われますが、プログラムを利用する場合は、賃金の一部を株式等で付与するのではなく、契約・就業規則に規定された賃金は全額現金で支払い、追加で福利として株式等を付与することや、従業員が自らの資産で任意に(賃金からの控除等をするのではなく)投資として購入することに限定するべきと考えます。

以 上

 

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(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

 

(ズン・パイ)

2014年Hanoi Law University (L.L.B)及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業。2017年名古屋大学大学院法学研究科修了。2017年11月に長島・大野・常松法律事務所のハノイオフィスに勤務。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、500名を超える弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

 

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

 

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