事例から学ぶサステナビリティ・ガバナンスの実務(4)
―リクルートホールディングスの取組みを参考に―
西村あさひ法律事務所
弁護士 森 田 多恵子
弁護士 安 井 桂 大
旬刊商事法務2273号(9月15日号)に掲載された「サステナビリティ委員会の実務」では、第4回目としてリクルートホールディングスの取組みを紹介した。本稿では、リクルートホールディングスの取組みを参考に、サステナビリティ経営を実現する意思決定プロセス全体の構築と、そうしたプロセスを支える重要サステナビリティ課題の見極めに際しての工夫、さらには多様性のある社内推進チームの構築に関する実務対応について解説する。
なお、サステナビリティ委員会を設置する意義や体制全体の構築、重要課題(マテリアリティ)の特定とPDCAサイクル、事業戦略・個別案件への組込み等に関する実務上のポイントについては、「事例から学ぶサステナビリティ・ガバナンスの実務(1)・(2)・(3)」(2021年8月12日・8月25日・9月6日掲載)を参照されたい。
1 サステナビリティ経営を実現する意思決定プロセス
リクルートホールディングスにおいては、社外のステークホルダーからのサステナビリティに関するインプットを踏まえた経営の意思決定プロセスとして、「サステナビリティオービット」が構築されている。
具体的には、①まず、社内のサステナビリティ推進チームにおいて、社外のステークホルダーとの対話等を通して、広く社会からの要請や期待を認識し、②関連するファクトも踏まえて社外有識者と社内経営陣を交えたサステナビリティ委員会で議論を深め、③それらを踏まえた上で、取締役会において会社としての取組方針等を決定し、④そうした方針等に基づいて定められた行動指針に沿って具体的な取組みを推進する、⑤そのような取組みを積み重ねながら「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」という経営理念の実現を継続的に目指し、⑥取組みの進捗を含めた自社の置かれた状況や社会全体の変化等も踏まえながら、また社外のステークホルダーの声に耳を傾ける(上記①に戻る)、という一連のプロセスを循環させることで、社外のステークホルダーの声を踏まえたかたちで、継続的かつ効果的にサステナビリティに関する取組みが推進されている。
社会全体が抱えているサステナビリティ課題は多岐にわたっているが、自社の置かれた状況や社会全体の変化等も踏まえながら、そうしたさまざまな課題を的確に認識し、その上で自社としてどのような課題に対していかなるアプローチで取り組んでいくのかを適時に意思決定していくためには、意思決定に至るまでの一連のプロセスの構築が重要になる。リクルートホールディングスにおいては、幅広い社外のステークホルダーからのインプットや社外有識者を交えたサステナビリティ委員会における議論に加え、後述する「サステナビリティ注目トピック観測マップ」を用いた重要サステナビリティ課題の見極めや、多様性のある社内推進チームの構築等を含め、そうした一連のプロセス全体の充実をはかり、かつ、それらを継続的に循環させることで、重要なサステナビリティ課題を先取りした意思決定、さらには決定された方針等を踏まえた効果的な取組みにつなげている。こうしたプロセス全体の構築に向けた取組みは、多くの企業にとって参考になるものであると考えられる。
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(もりた・たえこ)
西村あさひ法律事務所弁護士(2004年弁護士登録)。会社法・金商法を中心とする一般企業法務、コーポレートガバナンス、DX関連、M&A等を取り扱う。消費者契約法、景品表示法等の消費者法制分野も手がけている。主な著書(共著含む)として、『持続可能な地域活性化と里山里海の保全活用の法律実務』(勁草書房、2021年)、『企業法制の将来展望 – 資本市場制度の改革への提言 – 2021年度版』(財経詳報社、2020年)、『デジタルトランスフォーメーション法制実務ハンドブック』(商事法務、2020年)、『債権法実務相談』(商事法務、2020年)など。
(やすい・けいた)
西村あさひ法律事務所弁護士(2010年弁護士登録)。2016-2018年に金融庁でコーポレートガバナンス・コードの改訂等を担当。2019-2020年にはフィデリティ投信へ出向し、エンゲージメント・議決権行使およびサステナブル投資の実務に従事。コーポレートガバナンスやサステナビリティ対応を中心に、M&A、株主アクティビズム対応等を手がける。主な著作(共著含む)として、『コーポレートガバナンス・コードの実践〔第3版〕』(日経BP、2021年)、「改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたサステナビリティ対応に関する基本方針の策定とTCFDを含むサステナビリティ情報開示」(資料版商事法務448号、2021年)など。