SH4261 中国:中国版CFIUS(外商投資安全審査弁法)の概要と運用の現状(1) 鹿はせる(2023/01/05)

M&A・組織再編(買収防衛含む)

中国:中国版CFIUS(外商投資安全審査弁法)の概要と運用の現状(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

はじめに

 2020年12月19日に、中国国家発展改革委員会及び商務部は連名で「外商投資安全審査弁法」(以下「安全審査弁法」という。)を公布し、2021年1月18日から施行されている。同弁法は中国に対する投資を国家安全の観点から審査する、いわゆる中国版CFIUSとして知られており、23条からなる短い法令であるが、外国企業の対中直接・間接投資に幅広く適用されるものである。

 同安全審査は、特に近時では、日本企業同士、又は日本企業及び第三国企業(例えば米国企業)間の事業又は株式譲渡においても、対象事業・会社に中国事業・会社が含まれる場合に(つまり、中国にとってはいわゆる外・外取引にあたるが、日本又は第三国の買主による中国に対する新たな間接投資となる場合)、中国における届出及び審査が必要になるかという観点で注目されてきている。施行から2年が経ち、同安全審査の運用の実態は依然としてベールに包まれているところが多いが、審査の実例も出てきていることから、制度の概要、現時点で把握できる運用の現状及び日本企業としての留意点について本稿で概観する。

 

1 制定の背景

 安全審査弁法は、公布されたタイミングとの関係で米中摩擦との関連性が言及されているが、外国投資を国家安全の観点から審査する(前身となる)規制としては、2011年に施行された「外国投資者による国内企業の買収合併の安全審査制度の実施についての通知」(以下「安全審査通知」という。)が存在する。

 しかし、安全審査通知では、安全審査を行う対象を、外国投資家が中国国内の軍需企業等限定された産業を買収する場合に限定しており、外国投資者による中国国内企業持分を保有する外国企業の買収や(いわゆる外・外取引)、持分買収及び資産買収以外の形式による中国企業の支配権の取得(例えば、契約による支配権の取得)は審査対象外とされていたため、実際の適用は極めて限定されていた。これに対して、安全審査弁法では以下のとおり、審査対象が著しく拡大されている。

2 安全審査の適用対象

 ⑴ 適用対象となる「投資活動」

 安全審査弁法による安全審査が求められる「外商投資」は、中国国内で行われる、外国投資家[1]による以下のいずれかの方法による「直接的又は間接的な投資活動」である(2条)。

  1. ① 外国投資家が単独又はその他の投資家と共同で、中国国内で新規のプロジェクト投資又は企業設立を行うこと
  2. ② 外国投資家が企業買収の方法により中国国内企業の株式又は資産を取得すること
  3. ③ 外国投資家のその他の方法による中国国内投資

 上記①から③までは、規制対象となる外国投資家による投資の範囲を、以前の安全審査通知から拡大するものである。①は中国における直接投資が想定されているが、②は外国投資家が他の外国投資家から中国国内企業の株式又は資産を取得するいわゆる外・外取引など、間接投資も安全審査の対象としている。また、③では「その他の方法」による中国国内投資も規制対象とされており、この点は、VIEスキーム等の契約による中国企業の支配権の取得や、近年増えている中国企業SPAC上場について、海外で設立されたSPACによる中国企業との合併も想定されていると思われる。なお、香港、マカオ及び台湾からの投資についても、安全審査弁法の適用対象になると定められている(21条)。

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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

 

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