SH4251 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第0回 連載開始に当たって――読者の皆様へ 金山貴昭(2022/12/22)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 

第0回 連載開始に当たって――読者の皆様へ

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

【連載の目的】

 2022年6月1日に改正公益通報者保護法が施行されました。事業者は、施行に向けて内部規程の作成、窓口の設置や窓口担当者等を従事者に指定するなどの体制の整備に重点を置いて対応してきたと思います。しかし、同法に準拠した内部公益通報対応体制を構築することは、言うまでもなく、ゴールではなく、スタートです。すなわち、同法の施行後は、同法に従い新たな内部公益通報制度を運用し、また、内部公益通報制度の運用を踏まえた内部公益通報制度の見直しを行うことが必要になります。加えて、消費者庁は、本法の施行に関し必要と認められる場合には、行政措置をとることができ、今後は消費者庁が調査や違反事業者の公表等を行うことが想定されます。消費者庁が調査等に乗り出すのは、体制整備が不十分な場合だけではなく、内部公益通報への対応等が公益通報者保護法に違反する場合も含まれます。

 このように、既に内部公益通報対応体制を整備した事業者も、公益通報者保護法を遵守しながら、具体的な内部公益通報事案に対応しなければならず、事業者には公益通報者保護法について引き続き正確に理解することが重要になります。

 公益通報者保護法の条文数は、改正前の11条から改正後は22条に倍増しました。改正後も依然として条文数自体は多くありませんが、条文自体も読み解くことがやや難しい部分があり、また、指針や指針の解説など関連するルールもいくつか設けられていることから、条文数に比べると意外と奥行きのある法律です。このことは、改正公益通報者保護法の施行後、既に内部公益通報を受け付け、公益通報者保護法に準拠して対応することを検討した担当者の方は実感されていることと思います。

 そこで、本連載では、消費者庁において公益通報者保護法に基づく策定された指針や指針の解説の作成に関与した元担当者が、内部公益通報対応体制整備で盲点となりやすい点や運用面で直面すると考えられる点等について、QAの形式で説明いたします。

 本連載が、少しでも内部公益通報制度の円滑な運用に資すれば幸いです。

 

【連載内容】

 連載内容では、改正法で新設された内部公益通報対応体制に関連する実務上・運用上、盲点となりやすい事項や留意事項を中心に、下記の内容を解説していくことを予定しています。また、内部公益通報対応体制の在り方に関するQAも触れることを予定しておりますが、まだ体制整備が完了していない事業者にとっては参考となりますし、既に体制整備を終えている事業者にとっても体制見直しの参考になる点もあると思います。

  1. ● その他、今回の連載に含めてほしい事項がございましたら、下記のフォームより提出ください。採否について検討の上、連載に追加させていただきます。

 

従事者に関する運用上の留意点

Q 事業者に求められる従事者への対応

 令和2年改正で新設された従事者に関し、事業者として、どのような対応が求められますか。

Q 事案ごとに従事者を指定する場合の指定範囲

 内部規程では公益通報対応業務に従事することが想定される者を従事者に指定することを定めました。ただ、実際に通報があった場合には、その者以外についても必要に応じて都度従事者として指定する必要がありますが、誰を従事者に指定しなければならないのですか。

Q 従事者を指定する場合の留意点 

 従事者については、当社の従業員以外にも外部の窓口業者や弁護士を指定することができると思いますが、そのような従事者を指定する場合、どのような点に留意すべきでしょうか。

Q 従事者の守秘義務違反と刑事罰の成立

 公益通報者保護法では、公益通報対応業務従事者が守秘義務に違反した場合には刑事罰が科せられるとのことですが、具体的にはどのような場合に刑事罰が科されるのですか?

Q 通報者情報の共有上の留意点

 通報者を特定する情報をマスキング等秘匿化した上で社外取締役や監査役に報告する場合は従事者指定せずともよいでしょうか。

Q 従事者の属性に関する留意点

 当社は中小企業ゆえに対応人員が限られるため、内部公益通報の担当者が懲戒委員会を兼務することに問題はありませんでしょうか。

 

公益通報の種類・範囲

Q 公益通報の種類と各通報に対する事業者の義務

 公益通報者保護法における公益通報にはどのような種類がありますか?また、公益通報の種類に応じて公益通報者保護法上の保護の内容や事業者の義務は異なりますか?

Q 通報対象となる違反者の範囲

 公益通報の対象となる事実は、対象法令の刑事罰等に違反する事実ですが、当該違反者や違反の内容についてはどのような範囲でしょうか。

Q 匿名通報の受け付けに関する留意点

 公益通報者保護法では、公益通報の主体は、事業者の労働者や退職者、役員とされています。この点、匿名での公益通報の場合には、労働者や退職者、役員かどうかを通報者の氏名で確認することはできませんが、そのような場合には公益通報を受け付けなくとも公益通報者保護法には違反しないでしょうか。

Q 取引先従業員からの通報対応への留意点

 取引先の従業員から、当社に対して通報がありましたが、このような場合も公益通報者保護法上の公益通報として取り扱う必要があるのでしょうか。

Q 取引先従業員からの通報対応への留意点

 リスク管理の観点から、当社の内部規程では、当社従業員に対して、通報の順番として、まず内部通報をしてからでないと、行政機関や報道機関等への外部通報をしてはならないと定めていますが、このような規定を設けることは問題ないでしょうか。

 

内部公益通報受付窓口

Q 内部公益通報受付窓口と非内部公益通報受付窓口の区別

 当社では、「ハラスメント窓口」や「目安箱」など、いくつかの方法で従業員の声を集めるようにしています。これらは「内部公益通報受付窓口」に該当し、公益通報対応業務従事者を定めるなどの対応が必要ですか?

Q 内部公益通報受付窓口で受け付ける必要がある通報の種類

 当社は内部公益通報受付窓口を設置しましたが、内部公益通報受付窓口で受付をしなければならない通報とは具体的にどのような通報ですか。

Q グループ内部通報制度に関する留意点

 企業グループ共通の窓口を設置することで、企業グループ全体として内部公益通報対応体制を構築・運用しています。このような体制を構築・運営する上でどのような点に留意する必要があるでしょうか。

Q 内部公益通報対応体制整備義務の対象

 当社グループの子会社には、300名前後の会社がありますが、「常時使用する労働者」に含まれる労働者は具体的にどのような労働者でしょうか。また、グループ共通の通報窓口を設けていますが、子会社も独自に内部公益通報対応体制の整備義務を負うのでしょうか。

Q 不正調査と公益通報者保護法

 当社では、社内監査において違法行為の可能性が検知されたので、社内の調査チームを立ち上げて不正調査を実施することになりました。社内調査チームでは、調査の一環として、従業員に対してアンケート調査やホットラインを設置して、情報の収集を行うこととしました。このような調査について、公益通報者保護法上、留意すべき点はあるでしょうか。

Q 内部公益通報受付窓口以外への内部公益通報の取扱い

 当社の従業員が通報窓口ではなく、上司に対して通報した場合、上司はどのように対応する必要がありますか?

Q 労働組合に対する内部公益通報の取扱い

 当社の従業員が、労働組合に対して通報しました。この通報は、公益通報者保護法上の公益通報として保護されるのでしょうか。

 

公益通報者の保護

Q 不利益取扱いの内容

 従業員が公益通報した場合、通報した従業員に対して不利益な取扱いをすることは禁止されていますが、具体的にはどのような取扱いが禁止されているのでしょうか。

Q 違法行為を外部公表した従業員への対応

 当社の従業員が、SNSで当社の違法行為を発信して炎上してしまいました。従業員に対して損害賠償請求等の措置をとることは公益通報者保護法上問題はないですか。

Q 派遣社員・請負会社の従業員等からの通報への対応

 当社(A社)は、X社(派遣会社)から派遣社員を受け入れており、Y社には建物の建築工事を委託(請負契約)しています。当社に対して以下の通報が行われた場合、公益通報者保護法では、当社、X社(派遣会社)、Y社(請負会社)に対して、通報者への対応や会社間の契約関係についてどのようなルールが規定されていますか。

  1. 当社の従業員から当社に対して当社の違法行為について通報があった場合
  2. 派遣社員から当社に対して当社の違法行為について通報があった場合
  3. 請負会社(Y社)の従業員から当社に対して当社の違法行為について通報があった場合

Q 請負会社の従業員による通報の場合

 当社は、建築業を営んでおり、大手ディベロッパーの下請会社として建物の建築を請負っています。当社の従業員が、大手ディベロッパーの違法行為について、同ディベロッパーに対して公益通報したところ、大手ディベロッパーは当社との請負契約を解除しました。このような解除は公益通報者保護法に違反しないのでしょうか。また、通報した当社従業員を解雇することは認められますか。

Q 範囲外共有の禁止等

 指針では、守秘義務とは別に、範囲外共有や通報者の探索を禁止していますが、守秘義務と範囲外共有や通報者の探索とはどのような関係にありますか。

Q 保護される公益通報者の行為

 公益通報するために、従業員が法令や内部規則に違反して、法令違反行為を証明する資料等を持ち出した場合、本法の規定により不利益な取扱いは禁止されますか。

Q 外部通報の保護要件

 従業員が、内部通報ではなく、処分権限ある行政機関や報道機関などの外部に対して通報した場合について、どのような事情がある場合に、当該通報をした従業員に対して懲戒処分等をすることが禁止されますか。

 

公益通報への対応

Q 公益通報に対応する際の留意点

 当社の内部通報受付窓口に通報がありましたが、一連の通報対応を行う上でどのような点に留意して行えばよいでしょうか。

Q 調査の要否の検討

 当社の内部公益通報受付窓口では、多くの通報を受け付けますが、受け付けた通報は全て調査しなければならないのでしょうか。

 

中小企業の対応

Q 中小企業における公益通報者保護法

 中小企業や規模の小さいグループ子会社であっても、公益通報者保護法が定める内部公益通報対応体制を構築しなければ同法違反となるでしょうか?

 

社内への教育・周知

Q 役員に関する公益通報者保護法上の留意点

 役員への公益通報者保護法に関する教育・周知についてどのような点に留意すればいいでしょうか。

Q 従事者以外の従業員に関する公益通報者保護法上の留意点

 従事者以外の従業員については、基本的には公益通報者保護法が適用される場面はないと思いますが、何か留意しなければならない事項はありますか。

 

(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

公益通報者保護法Q&Aアンケート

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