SH4375 中国:ゼロコロナ政策の終焉と今後の法的問題(中) 若江悠(2023/03/23)

風評・危機管理

中国:ゼロコロナ政策の終焉と今後の法的問題(中)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

(承前)

2 なぜ今だったのか

 前触れがないわけではなかった。まず、中国の当局関係者も、ゼロコロナ政策を永遠に続けるつもりではなく、経済的な影響などもあるなか、一定の条件を満たすまでの間、中国の人口の生命と健康を守るための暫定的な措置(今年5月のある研究では、ゼロコロナ政策を放棄すれば150万人を超える死者が出るとの結果も出ていた)と位置づけており、あとはそれらの条件がどの程度満足されたところで、どのタイミングで転換が行われるかの問題ではあった。

 上海ロックダウン後、2022年6月28日には、オミクロン株の特質にあわせた第九版新型コロナ防控方案が同メカニズムから出され、濃厚接触者や入国者の隔離措置がもともと「集中隔離14日+自宅隔離7日」であったものを「集中隔離7日+自宅隔離3日」へと短縮するなどの措置がとられたが、ゼロコロナ政策は「動揺せず堅持」するものとされ、実際に、上海ロックダウンの教訓を踏まえて、また各地での感染者の増加に対応するため、上記場所コードの徹底、頻回PCR検査の要求、都市間移動時の各種要求などが各地で執行された。11月11日には、濃厚接触者や入国者の隔離をさらに「集中隔離5日+自宅隔離3日」へと短縮する、二次濃厚接触者の追跡は行わない、追加的な行動制限措置(「層層加碼」、国の政策にはないのに、感染拡大の責任をとりたくない各地方政府により時として過剰に追加的な措置が実際には行われていた)は許さないなどの内容を含む「20条措置」を同メカニズムが発表していた。その時点では、新たな党指導部の決定とともに10月に党大会が無事閉会した後、同大会でゼロコロナ政策からの転換が発表されなかった以上は、2023年3月に開催される予定の「両会」までの間は、当該措置が維持されたまま、いくつかの課題(高齢者のワクチン接種率の引上げ、治療薬の準備、医療資源が脆弱な地方を中心に医療体制の整備など)の解決を含めて順次準備がされたうえで、「両会」後に本格的な緩和が実施されるものとの観測を述べる識者が多かった。その後、広州、重慶など複数の地域における感染拡大により、むしろ防疫措置を厳格化する動きさえみられ(たとえば上海では、11月24日より、他の市から上海に来た又は戻ってきた人は、5日が経過するまではレストランやショッピングモールには入館できないとの新たな規制が導入された)、当面は漸次的な緩和すら望めないのではないかと悲観的にみられていた。ただ、さらにさかのぼって振り返ってみると、従前は、党大会後にゼロコロナ政策からの実質的転換があるとの期待が広く共有されていたのであり、結果としてみれば、実際に党大会後に(少し経ってからではあったが)そのような転換がなされたことにはなっている。今回の転換はたしかに突然ではあったが、(最近でこそ丁寧にパブリックコメントなどを実施してから新たな規制を導入することも増えてきたが)中国では、重要で敏感な問題であればあるほど、一気に制度を変えて、後から実務的な対応を補っていくことは少なくないこともまた事実である。

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(わかえ・ゆう)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

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