タイ:地域統括本部
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
タイでは、2015年1月から地域統括本部(International Headquarters、IHQ)に関する新制度が施行された。
東南アジアで事業展開を進める企業の地域統括拠点としては、これまでシンガポールが選択されることが多かったと思われる。金融やサービス分野のビジネス環境や各種インフラの充実度を考慮すると、シンガポールが地域統括拠点として選択される傾向は今後も続くであろう。しかし、日系企業の中には、自動車関連を中心とする製造業の集積が進んだタイに、東南アジアにおける物的人的な資源が集中しているという企業も多い。IHQの新制度は従前の制度から大幅な改善が行われ、周辺国の制度と比較しても使い勝手がよくメリットの大きい制度となっており、上記のような企業にとっては、タイに統括拠点を置くことも有力な選択肢の一つとなると思われる。実際に、既にIHQとしての認可を受けた大手日系企業も複数出てきている。
■IHQの制度概要
IHQは、2015年1月から施行されたタイ投資委員会(Board of Investment、BOI)の新投資奨励策の目玉の一つである。IHQとは「タイ法に基づき設立され、国内外の関連企業又は支店に対して、管理サービス、技術サービス、支援サービス又は財務管理サービスを提供する企業」と定義され、BOIと歳入庁(Revenue Department)のそれぞれから各種恩典の付与を受けることができる(いずれか一方の恩典のみを申請することも可能である)。IHQの事業範囲、恩典及び恩典取得要件の概要は、以下の通りである。
IHQ(BOI)の |
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要件 |
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恩典内容
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【BOIから付与される恩典】
【歳入庁から付与される恩典】
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■旧制度からの改善点
IHQの制度は、2014年末までの旧制度(地域事業本部(Regional Operating Headquarters、ROH))における問題点の多くが解消され、利用しやすい制度となっている。
たとえば、旧制度の下では、恩典取得の要件として、「3か国以上」に所在する関連会社又は支店に対するサービス提供が必要であることが求められていたが、新制度の下では「1か国以上」に緩和された。また、歳入庁からの恩典取得のためには全所得の50%以上をタイ国外からのロイヤリティ収入により得ることが条件とされていたため、タイ国内での収入の多い事業会社に統轄機能の兼業を行わせることが難しかったが、IHQの制度においては、この50%要件は撤廃され、タイ国内の事業会社にIHQの機能を持たせることも現実的に可能となった。さらに、ROHの業務範囲には含まれていなかった貿易統括機能やトレジャリーセンター機能も、IHQの業務範囲に追加されており、統括会社の機能の拡充が図られている。