☆シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 坂下 大(2020/04/10)

2020年4月9日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

はじめに

 4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出され、国内の感染対策は新たなフェーズに入りました。多くの海外地域においては厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、4月8日には中国武漢市の封鎖が解除されるなど、一部地域においては収束に向けた兆しも見え始めています。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月8日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者:6人、感染者数(累計):1,481人(4月7日現在)

 シンガポールでは3月下旬より(それまでよりも)強化された感染拡大防止措置がとられていたが、1日あたりの新規感染者数は減少を見せず、また感染経路を特定できないケースが増加したことから、4月3日、リー・シェンロン首相が演説を行い、4月7日から5月4日までの期間、さらに強化された感染拡大防止措置(circuit breakerと表現されている。)をとることが発表された。当該期間中、生活必需サービスに関するものを除いて、会社のオフィスや商業施設は原則として閉鎖され、教育機関も閉鎖又はオンライン授業に移行することとなる。

 

主な政府発表

  1. ・ 保健省による、Disease Outbreak Response System Condition (DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
  2. ・ 政府タスクフォースよる、国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(3月24日)
  3. ・外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)不遵守に対する罰則、及び上記感染拡大防止措置等を定めた感染症法の下位規則の施行(3月25日、同26日、4月1日)
  4. ・ circuit breaker措置の開始(4月7日)
  5. ・ COVID-19対策法(COVID-19 (Temporary Measures) Act 2020)の国会での承認(4月7日)

 

渡航情報

  1. 1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
     (1)渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、政府指定の施設での14日間のSHNの対象とする。
     (2)上記に加え、長期滞在パス保有者は、シンガポールへの渡航前に、所轄官庁の事前の許可を得る必要がある。雇用パス保有者及びその家族等の場合、雇用者の責任において、事前にMOMの許可を得ることとされている。現在、このMOMの許可が得られるケースは極めて限定的であり、現在シンガポール国外にいる雇用パス保有者の多くは、当面シンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
     (3)さらに、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。
  2. 2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
     全ての入国及び乗継ぎを禁止。

 

circuit breakerと関連法令

  1. ・ 4月7日から5月4日までの間実施されるcircuit breaker措置の内容は、大要以下のとおりである。
     (ⅰ)生活必需品の調達、生活必需サービスへの従事、(1人又は同居者との)屋外での運動、その他一定の例外を除いて、自宅に滞在すること。
     (ⅱ)同居者以外の者との物理的会合は禁止。
     (ⅲ)例外的に外出が認められる場合でも、他人と1メートル以上の距離を設ける。
     (ⅳ)例外的に外出が認められる場合でも、他人と1メートル以上の距離を設ける。
     (ⅴ)一定の生活必需サービス(政府機関や生活必需品小売店等)以外の事業は、事業場を全て閉鎖し、自宅でのリモートワークのみ可(例外的に事業場を開ける必要のある場合には、当局の個別許可が必要。オンラインで申請可能である。)。
  2. ・ 4月7日、COVID-19対策法の法案が国会で承認された(間もなく施行されると思われる。)。同法は、一定の契約の一時的な履行猶予、各種倒産手続開始要件の一時的緩和、法令上の会議開催や裁判手続における臨時措置、不動産税減免に関する取扱い(減免分を借主に還元)、保健省(MOH)大臣の権限で感染拡大防止措置に関する強制力ある規則を制定できる旨等を定める。 
  3. ・ 同日付で、MOH大臣によりCOVID-19 (Temporary Measures) (Control Order) Regulations 2020が制定されている。COVID-19対策法の下位規則として、4月7日から5月4日までの間、上記circuit breaker措置の遵守を求めるものである。同規則の違反は罰則の対象となる(1回目の違反の場合、10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科。2回目以降の違反の場合、20,000シンガポールドル以下の罰金若しくは12か月以下の懲役又はこれらの併科。)。
  4. ・ 上記、COVID-19対策法及びその下位規則とは別に、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (Measures to Prevent Spread of COVID-19) Regulations 2020(3月26日付)及びInfectious Diseases (Workplace Measures to Prevent Spread of COVID-19) Regulations 2020(4月1日付)が施行されている。circuit breaker措置に先立つ3月26日の時点で、4月30日までの期間を対象に、既にバーや娯楽施設の営業禁止、学校、職場外での10名超の会合の禁止、各人の間に1メートル以上の物理的間隔を設けること、職場においてはリモートワークその他の接触機会の低減を図ること等の措置がとられており、これらに法的強制力を付与するために設けられた規則(罰則あり)であるが、現時点では、これらの規則は特に廃止又は改正されていない。COVID-19対策法及びその下位規則に基づく措置の方が基本的には厳格であるため、今後(4月30日までの間)これら感染症法の下位規則が適用される場面は限定的であるように思われるが、念のためこれらの規制の存在にも留意する必要がある。

 

その他

  1. ・当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日数回SNSを通じ、その日の新規感染者数、感染拡大防止措置の呼びかけ、その他最新情報が配信される。
  2. ・Trace Togetherという接触者管理のためのスマートフォンアプリが政府により開発、公開されている。アプリをダウンロードした端末間のBluetooth通信によりアプリ利用者の接触を記録し、アプリ利用者が感染した場合には、政府が当該記録を辿って過去の接触者に所要の連絡をとることが想定されている。
  3. ・MOMは、従業員の物理的接触機会を減らすための措置をとっていないこと等を理由に、21の事業者に事業停止命令又は改善命令を行ったと発表した(3月23日)。
  4. ・雇用パス保有者(外国人労働者)の場合、SHNの遵守は、労働者と雇用者の共同の義務であるとされている(例えば、雇用者は、SHN期間中、労働者が食事や日用品を確保できるようにする義務を負う。)。SHNの遵守はスマートフォンアプリ等を通じて厳格にチェックされ、不遵守に対しては、(下記Infectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020違反に基づく罰則適用に加えて)雇用パスの取消しや、雇用者に対する将来の雇用パス申請不許可等の厳格な処分が科され得る(実際にそのような処分例も報道されている。)。自社従業員がSHNの対象となる場合には、雇用者としてもその遵守について十分配慮をする必要がある。
  5. ・3月25日より、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020が施行されている。SHNの不遵守に罰則(10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科)が設けられている。
  6. ・会計企業規制庁(ACRA)より、(ⅰ)4月16日から7月31日までに年次株主総会を開催すべき会社に60日間の期限猶予、(ⅱ)5月1日から8月31日までに年次報告書を提出すべき会社に60日間の期限猶予がそれぞれ認められている。

 

(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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