☆シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 坂下 大(2020/04/24)

2020年4月23日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

はじめに

 当初5月6日までとされていた緊急事態宣言につき、大型連休以降も延長する可能性につき政府内で議論が開始されたほか、自治体の休業要請に応じない事業者に対しより強い措置を講ずる場合のルール作りが始まるなど、新型コロナウイルスの事業への影響は長期化・深刻化しています。多くの海外地域においては引き続き厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、一部地域においては行動制限の軽減・解除に向けた議論が始まるなど出口戦略の模索も始まりつつあります。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月22日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者:11人、感染者数(累計):9,125人(4月21日現在)

 シンガポールでは4月7日からcircuit breakerと呼ばれる感染拡大防止措置がとられており、原則的な外出禁止、オフィスの閉鎖等が実施されている。この数日は、大規模な感染拡大が生じている複数の外国人労働者の宿泊施設等において(隔離措置とともに)積極的な感染検査がなされていることもあり、1日あたり1,000人超の感染者が確認されており(4月21日の感染者1,111人中、外国人労働者の宿泊施設居住者は1,050人)、またそれ以外の市中感染についても、1日あたりの感染者数は20~30人程度で推移しているものの、感染経路が特定できないケースが一定数存在する状況である。かかる状況下、4月21日、リー・シェンロン首相が会見を行い、当初5月4日までとされていたcircuit breaker措置を6月1日まで延長することが発表された。

 

主な政府発表

  1. ・ 保健省(MOH)による、Disease Outbreak Response System Condition(DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
  2. ・ 政府タスクフォースよる、国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(3月24日)
  3. ・ 外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)不遵守に対する罰則等を定めた感染症法の下位規則の施行(3月25日)
  4. ・ circuit breaker措置の開始(4月7日)
  5. ・ COVID-19暫定措置法(COVID-19 (Temporary Measures) Act 2020)の成立(4月7日)
  6. ・ circuit breaker措置を6月1日まで延長することを発表(4月21日)

渡航情報

  1. 1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
  2. (1)渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、政府指定の施設での14日間のSHNの対象とする。
  3. (2)上記に加え、長期滞在パス保有者は、シンガポールへの渡航前に、所轄官庁の事前の許可を得る必要がある。雇用パス保有者及びその家族等の場合、雇用者の責任において、事前に人材省(MOM)の許可を得ることとされている。現在、このMOMの許可が得られるケースは極めて限定的であり、現在シンガポール国外にいる雇用パス保有者の多くは、当面シンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
  4. (3)さらに、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。
  5. 2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
  6.   全ての入国及び乗継ぎを禁止。

circuit breakerと関連法令

  1. ・ 4月7日から6月1日までの間実施されるcircuit breaker措置の内容は、大要以下のとおりである。
  2. (ⅰ) 生活必需品の調達、生活必需サービスへの従事、(1人又は同居者との)屋外での運動、その他一定の例外を除いて、自宅に滞在すること。
  3. (ⅱ) 同居者以外の者との物理的会合は禁止。
  4. (ⅲ) 例外的に外出が認められる場合でも、他人と1メートル以上の距離を設ける。また、マスクを着用する。
  5. (ⅳ) 住居や生活必需サービス拠点を除き、あらゆる施設(商業、娯楽、スポーツ施設等)の閉鎖。
  6. (ⅴ) 一定の生活必需サービス(政府機関や生活必需品小売店、サービス提供者等)以外の事業は、事業場を全て閉鎖し、自宅でのリモートワークのみ可。(例外的に事業場を開ける必要のある場合には、当局の個別許可が必要。オンラインで申請可能である。)
  7. ・ 4月7日、COVID-19暫定措置法が成立した。同法は、一定の契約の不履行に関する一時的な救済措置、各種倒産手続開始要件の一時的緩和、法令上の会議開催や裁判手続における臨時措置、不動産税減免に関する取扱い(減免分を借主に還元)、MOH大臣の権限で感染拡大防止措置に関する強制力ある規則を制定できる旨等を定める。
  8. ・ 同日付けで、MOH大臣によりCOVID-19 (Temporary Measures) (Control Order) Regulations 2020が制定され、その後も随時アップデートされている。COVID-19暫定措置法の下位規則として、上記circuit breaker措置の遵守を求めるものである。同規則の違反は罰則の対象となる(法定刑は、1回目の違反の場合、10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科。2回目以降の違反の場合、20,000シンガポールドル以下の罰金若しくは12か月以下の懲役又はこれらの併科。)。

その他

  1. ・ 当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日数回SNSを通じ、その日の新規感染者数、感染拡大防止措置の呼びかけ、その他最新情報が配信される。
  2. ・ Trace Togetherという接触者管理のためのスマートフォンアプリが政府により開発、公開されている。アプリをダウンロードした端末間のBluetooth通信によりアプリ利用者の接触を記録し、アプリ利用者が感染した場合には、政府が当該記録を辿って過去の接触者に所要の連絡をとることが想定されている。
  3. ・ 3月25日より、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020が施行されている。SHNの不遵守に罰則(10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科)が設けられている。
  4. ・ 会計企業規制庁(ACRA)より、(ⅰ)4月16日から7月31日までに年次株主総会を開催すべき会社に60日間の期限猶予、(ⅱ)5月1日から8月31日までに年次報告書を提出すべき会社に60日間の期限猶予がそれぞれ認められている。
  5. ・ MOMは、上記circuit breaker措置に違反した外国人の雇用パスを取り消し、今後シンガポールでの就労を永久に禁止する旨の処分を行った旨を発表した(4月12日)。
  6. ・ 上記circuit breaker措置の違反について、6,200件以上の警告が実際に発せられ、また500件以上の罰金が実際に科されている(4月14日)。
  7. ・ COVID-19暫定措置法において、2020年3月24日以前に締結又は自動更新された(ⅰ)中小企業向けの一定の担保付ローンに係る契約、(ⅱ)工場、機械設備、商用車に係る割賦販売契約又は条件付売買契約、(ⅲ)イベント契約、(ⅳ)観光関連契約、(ⅴ)建設契約、建設資材供給契約等、(ⅵ)非居住用不動産に係るリース契約等の不履行に一定の救済措置が定められている。2020年2月1日以降に履行期が到来する対象契約上の義務の履行ができず、その不履行がCOVID-19を重要な理由とするものである場合において、不履行当事者が相手方当事者等に所定の通知を行ったときは、相手方当事者は、一定期間、裁判や仲裁による権利行使、担保権の実行、倒産関連手続の申立て、対象契約の目的資産の占有回復等が禁止される。
  8. ・ Jobs Support Schemeとよばれる施策により、シンガポール国民又は永住者たる一定の労働者等の9か月分の給与(月給4,600シンガポールドルまでの部分。)の25%から75%(割合は産業セクターにより異なる。4月及び5月分は一律75%。)が政府から使用者に助成される。
  9. ・ 3月12日以降に労働者の給与に影響を及ぼすコスト削減策を講じた一定の使用者は、MOMにその旨を通知する必要がある。

(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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