◇SH1823◇チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(1) 饗庭靖之(2018/05/10)

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チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(1)

首都東京法律事務所

弁護士 饗 庭 靖 之

 

1 はじめに

 株式会社は株主が所有者で、株主総会が最高意思決定機関であり、執行機関は、取締役会を設けて、対等な発言力を持った取締役の合議制による慎重な意思決定と取締役相互の監視というシステムが設けられている。

 それにもかかわらず、株式会社の組織機構における意思決定システムは、社長である代表取締役が事実上権力を独占して、リーダーシップを発揮する大統領型組織となっているのが実態の大勢となっている。

 株式会社は、今日の社会において事実上大きな力を持って社会に影響を与えており、株式会社が社会に貢献する適正な存在であり続けるよう、株式会社の意思決定が客観的に適正であることを保障する枠組みが求められている。

 このため、社長である代表取締役が株式会社における権力を事実上独占していることに対し、株式会社におけるチェックアンドバランスを持ち込み、代表取締役に集中した権力の分散を図ることが必要ではないかと考えられている。

 そのために、機関投資家のスチュワードシップ・コード、社長の後継者計画、社外取締役制度や社外監査役などが導入あるいは提唱されており、本連載では、これらにより株式会社にチェックアンドバランスを持ち込み、代表取締役に集中した権力の分散を図ることができるか検討する。

 

2 会社経営者の経営判断の対象は何か

 株式会社においては、株式会社の業務執行を司る機関として取締役会を設置することとされているのに、なぜ社長である代表取締役が株式会社における権力を事実上独占することになるのか。

 この原因をまず明らかにすべきであるが、その原因は、以下のとおり、株式会社である企業が事業体として、利益を上げていくため合目的的に統一した活動を行っていくには、社長である代表取締役が、経営判断の最高決定権を独占するように動機づけられているからだと考えられる。

 会社は営利企業とされ、会社の目的は利益を上げることである。社長である代表取締役は、利益を上げることを求められており、そのために次のような経営判断を行う。

 利益は、売上額から費用を差し引いた額であるから、利益を上げるためには、第一に売上額を増大させることが必要であり、企業の財・サービスを顧客に買ってもらう金額を増大させる必要がある。

 企業の財・サービスを顧客に買ってもらう金額を増大させるためには、より多くの人に買ってもらうこと、あるいはより高く買ってもらう必要があり、その実現は、財・サービスの提供による顧客の満足度を高めていくことによってはじめて可能となる。

 顧客の満足度を高めていくことは、財・サービスの提供により、顧客の生活の不便を減らし楽しみを増やしていくことであり、そのような顧客の満足度を高めていく活動を行うことは、財・サービスの顧客への提供を通じて、人々が幸せを追求することを手助けする、社会貢献を行うことである。

 また、企業の目的である利益を上げるための努力の内容は、売上額から控除される費用を低減させていくことが重要だが、費用を低減させることは、人々の生活の不便を減らし楽しみを増やしていくために必要な財・サービスの提供の社会的コストを低減させることである。

 以上のとおり、企業の目的である利益を上げるための努力の内容は、社会的に必要な財・サービスを、その商品価値に比べれば低廉なグッドバリューで顧客へ提供していくということである。

 社長である代表取締役が経営判断していく事項は、財・サービスを低廉な価格で顧客へ提供する会社事業を継続して発展させること、そして、財・サービスの提供を通ずる顧客の満足を増大させて会社価値の向上を実現することである。

 会社事業の持続可能な発展を実現し、会社価値を向上させる[1]ためには、社長である代表取締役が、会社事業全体を把握して全体を合目的的に統一した活動として行う必要があり、そのため経営判断の最高決定権を独占するよう動機づけられている。

 そして、経営判断すなわち業務執行の決定は、取締役会で取締役が合議して決することとされているため、社長である代表取締役は、取締役会での権力を掌握する必要があると考えることになる。

 


[1] 「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」は、コーポレートガバナンス・コード(東京証券取引所・有価証券上場規程436条の3)において、取締役会の責務の内容とされ、株主との対話の内容とされている。「持続的な成長」が由来するものと考えられる「持続可能な発展」(sustainable development)は、「環境と開発に関する国連会議」のリオ宣言をはじめ、種々の国際条約に盛り込まれており、自然と共存する経済活動を意味していたが、「持続可能な発展」の理念は、環境の保全と経済成長は矛盾する関係にあるとの懸念が環境保全措置を阻害する大きな原因となってきたことについて、この懸念を克服する上で、大きな役割を果たし、この「持続可能な発展」が会社の事業活動の理念としても取り上げられ、「会社の持続的な成長」を図ることが、コーポレートガバナンス・コードでも、会社の事業活動の目標とされている。

 

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