◇SH1826◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(69)―企業グループのコンプライアンス② 岩倉秀雄(2018/05/11)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(69)

―企業グループのコンプライアンス②―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループのコンプライアンスについて、組織間関係論をベースに筆者の問題認識と考察の視点について述べた。

 親会社は、子会社のコンプライアンス違反によりグループ企業全体の価値が棄損するのを避けるために、(海外を含む)子会社に対するコンプライアンスの浸透・定着を徹底する必要がある。

 その場合、グループ共通の価値観や信念であり子会社の組織行動に影響を与える「組織間文化」(組織間における神話、儀礼、言語のほかに、経営会議や各種委員会への参加など公式のコミュニケーションシステム、経営者同士の個人的関係や対境担当者同士の業務行動などにより発生する)に働きかける視点が重要である。

 今回は、子会社の規模や経営状況による対応の違いについて考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス②:子会社の規模や経営状況による対応の違い】

 親会社は、子会社にコンプライアンスを浸透・定着させる場合、子会社の実態を踏まえずに、親会社が実施する施策を一律に子会社に適用しがちである。

 しかし、子会社自身も、それぞれの業界で培った独自の業務の進め方を持っており、親会社から与えられた単一のコンプライアンス・プログラムに従って受身的に活動したとしても、有効なコンプライアンス活動は望めない。

 したがって、既述したように、子会社の実態を踏まえたグループコンプライアンス施策の設定が重要である。

 

2. 子会社の規模や経営状況による対応の違い

 今回は、子会社の規模や経営状況による対応の違いはどうあるべきか、コンプライアンスの浸透・定着に十分に資源投入できない比較的規模が小さくそれ故にリスクの高い子会社に、どうすればコンプライアンスを浸透・定着させることができるのかについて、それぞれの視点を考察する。

(1) 経営者の見識が高く事業規模が比較的大きく経営が順調な子会社への対応

 (1) のような組織は、経営者がコンプライアンスに対する理解が十分な上に資源投入が可能であることから、コンプライアンスに関する情報・専門性を一定程度備えており、親会社への依存が少ないので、コンプライアンスリスクが少ないと想定される。

 親会社は子会社の自主性を尊重し、過度な干渉をせずに理念やビジョン・行動憲章等の共有化や取締役会・監査役によるチェックなど、緩やかな関係を維持しつつ取り組む方が、子会社に自発的な問題意識が生まれ、「やらされ感」が発生せず、より実効性のある取組みが行われると思われる。

 経営トップ同士のコミュニケーションを通してコンプライアンスの重要性に関する共通認識を形成することや、株主として派遣している取締役に対して取締役会で子会社のコンプライアンス推進体制の構築・運営状況に対する報告を求めること等が想定される。

 また、親会社が子会社に対するアンケートを実施してコンプライアンスの定着状況を把握し、問題がなければ特別の対応をせず、問題がある場合には子会社のコンプライアンス部門に働きかけて自律的解決を促すという方法も考えられる。

 その他に、定期的な研修や会議を通してタイムリーに情報提供し、コンプライアンス部門間のコミュニケーションを良好に保ち、いつでも気軽に子会社から親会社に相談できる信頼関係を構築し維持しておくことも重要である。

 それらは、グループとしての理念や情報・認識の共有化、子会社の主体的取組みの推進、親会社の負担軽減につながる。

(2) 規模が小さく人材も少ない子会社への対応

 現実には (1) のような子会社は必ずしも多くはない。

 子会社の多くは親会社よりも規模が小さく人材も少ないので、親会社と同じ取組みを行うことは難しい。

 その場合には、親会社はタイトな組織間関係を構築し、資源依存関係に基づき報酬・制裁のパワー、情報・専門性のパワー、一体化のパワー等を活用して子会社を強力に指導する必要がある。

 親会社と子会社の間には、垂直的な資本関係があり法的支配関係があるが、子会社は独立した法人であることから、(筆者も子会社の役員を経験しているが)子会社は、必ずしも親会社の一方的な指示・命令に従いたくはない。(そうは言っても、子会社は、程度の差はあるものの、親会社にカネ、ヒト、モノ、情報、ビジネス等の面で依存関係にあるので、親子会社間にはパワー関係が発生している。)

 親会社が資本関係を背景に、一方的に子会社に指示・命令を出しても、子会社が理解し納得しなければ、子会社に抵抗、混乱が発生し、コンプライアンスが有効・効率的に子会社に浸透・定着することは難しい。

 子会社にコンプライアンスを浸透・定着させるためには、親会社のコンプライアンス部門や担当役員、関連会社の管理部門等、子会社との接点になる親会社の対境担当者が、適切な情報をタイムリーに提供するとともに、良好・円滑な関係を形成することが必要である。それにより、子会社はコンプライアンスの重要性を理解・認識し、自組織のコンプライアンス推進上の課題や具体的な推進方法を相談する等、自らの組織にコンプライアンスを浸透・定着させるために積極的に行動する。

 

 次回は、組織間関係論の概念と視点を山倉[1]により確認する。



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)

 

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