◇SH1845◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(71)―企業グループのコンプライアンス④ 岩倉秀雄(2018/05/18)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(71)

―企業グループのコンプライアンス④―

経営倫理実践研究センターフェロー

 

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織間関係論の概念を確認した。

 組織間関係は、組織と組織のなんらかの形のつながりであり、組織間の、カネ・ヒト・モノ・情報を媒介とするつながりである。

 組織間関係は経営環境であり、組織の存続・発展は、絶えず変化する経営環境への適合、すなわち「他組織との間にどのような関係を作り上げるのか」にかかっている。

 組織間関係論の研究テーマは、①組織間の共同行動や共同組織の形成、②資源依存関係の活用、③組織間関係の形成・安定、④組織間構造、⑤組織間文化、⑥組織間のコミュニケーション等、多様な切り口が想定されるが、本稿では、親会社が子会社を企業グループとしていかにコンプライアンスの浸透・定着という一定の方向に向かわせることができるのか、すなわち「組織化と組織間調整の問題」を中心に考察する。

 今回は、組織間パワーの形成と資源依存関係について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス④:組織間パワーの形成と資源依存関係】

 組織は、存続するためには外部環境から資源を獲得しなければならないオープンシステムである。

 組織の存続は、諸資源を所有しコントロールしている他の組織との関係に依存しており、資源の獲得・処分を巡って他の組織との間に、組織間関係が形成・維持される。

 組織は、自らの自律性を保持し、他組織への依存を回避しようとすることから、できるだけ他組織を自らに依存させ、自らの支配の及ぶ範囲を拡大しようとするが、依存を受け容れざるを得ない時には、その課題を積極的に取り扱うという行動原理を持つ[1]

 組織は、資源獲得のために他組織に依存している現実と他組織から自律的であろうとする要請のはざまで、自らの存続を確保しようとしている。[2]

 筆者は、これまでのパワーの考察の際に、「パワー関係は個人間でも組織間でも発生し、パワーはパワー資源への依存関係により発生する」ことを述べた。

 組織が他組織に依存することによりパワー関係が発生するが、組織にとって他組織の資源が重要であればあるほど、組織がそれ以外の源泉から必要とする資源を獲得できなければできないほど、他組織に依存することになる。

 その意味で、依存度は、他組織が保有しコントロールしている資源の重要性と、他組織以外からの資源の利用可能性(資源の集中度)の関数であり、組織は他組織にとって希少であり重要である資源を保有しているほど、また資源を独占しているほど、他組織に対するパワーを持つ。

 すなわち、組織の他組織への依存は、組織間関係のパターン(組織間の資源交換課程と組織の資源必要性)から生じる。[3]

 組織間の資源依存関係によりパワー関係が発生(資源依存パースペクティブ)することを踏まえて組織間の調整の仕組みを考えることが、親会社が子会社にコンプライアンスを浸透・定着させる場合にも活用できる。

 一般に、組織と組織の依存関係を調整する戦略としては、

  1. 1. 依存の吸収・回避を目指す自律化戦略(合弁・垂直統合、部品の内製化など)
  2. 2. 依存を認めた上で、他組織との間で、折衝により互いの妥協点を発見し、他組織との良好な関係を形成しようとする協調戦略(協定締結、包摂、人材導入、合弁、アソシエーション等)
  3. 3. 依存関係を当事者間で直接操作するのではなく、第3者機関(上位レベル)の介入、又はそれへの働きかけを通じて、間接的に操作する政治戦略(正統性の獲得、政府の規制、ロビイング等)

がある。[4]

 グループ会社のコンプライアンスを有効に機能させるためには、(資源依存関係とパワーの視点から考察すると)親会社と子会社は(子会社の状況にもよるが)、2. の協調戦略で出発し、3. の正当性の獲得(親子会社間の緊密な連携を前提にする)に進み、1. の子会社の自律化に至ることが、リスク管理上現実的であると考える。

 何故ならば、1. の依存の吸収・回避を行うためには、前提として子会社の資源が十分でかつ経営の自律性が高い(経営実績が良い)という条件が必要であり、現実には大多数の子会社は資源が少ないからである。

 子会社は、親会社への依存を認めたうえで、親会社と協調してコンプライアンスの浸透・定着を図り、親会社からコンプライアンス体制の確立に対する一定の「お墨付き」(正当性)を得た後に、親会社に依存せず自律化するのが現実的であると思われる。

 なお、山倉は、組織間関係論には、資源依存パースティクティブを補完する考え方として、組織間の他組織との連結機能や境界維持機能を担う対境担当者の行動や制度化、組織内部の構造、意思決定の自立性・有効性確保、組織風土、組織間パーソナル・フロー、組織間統合、組織グループ共通の目標や価値等、組織間関係を包括的にとらえようとする組織セットパースペクティブの視点からの研究が重要であると指摘している。[5]

 

 次回は、組織と組織の関係がどのように形成・展開していくのかについて、組織間のパワーとコミュニケーションの影響力について考察する。



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)36頁

[2] 山倉・前掲[1] 35頁、36頁

[3] 山倉・前掲[1] 36頁、37頁

[4] 山倉・前掲[1] 38頁

[5] 山倉・前掲[1] 41頁~45頁

 

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