◇SH3985◇シンガポール:ファンド運用会社とシンガポール籍ファンドの基礎(2) 長谷川良和(2022/04/26)

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シンガポール:ファンド運用会社とシンガポール籍ファンドの基礎(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

(承前)

ファンド運用会社のライセンス又は登録要件

 上述した規制類型のうち、適格投資家向けライセンス保有ファンド運用会社及び登録ファンド運用会社のライセンス又は登録要件に関する主要な事項は、大要以下のとおりである。

 

 

適格投資家向けライセンス保有
ファンド運用会社

登録ファンド運用会社

実体あるファンド運用活動

  1.  • 投資ポートフォリオ、投資調査又は取引実行等の実体あるファンド運用に係る事業活動をシンガポールで行う必要あり。
  2.  • 助言又は調査活動は、投資ポートフォリオ運用に影響力又は支配を及ぼせる場合には実体あるファンド運用と評価される。

最低資本金

250,000シンガポールドル(約2,125万円)以上

リスクベース資本

事業リスク要件の120%以上の財源が必要

CEO

  1.  • 関連経験(マネジメント経験又は管理者経験)の最低年数:5年

    1. ➢ CEOは会社の日常業務に関してフルタイム雇用され、シンガポール居住である必要あり。

取締役人数:

関連経験の最低年数:

執行取締役の人数:

  1.  • 最低2名
  2.  • 関連経験(マネジメント経験又は管理者経験)の最低年数:5年
  3.  • 最低1名

    1. ➢ 執行取締役は会社の日常業務に関してフルタイム雇用され、シンガポール居住である必要あり。
    2. ➢ ファンド運用会社が行う予定の事業と同じ分野でのポートフォリオ運用の経験を5年有する執行取締役が最低1名必要。

シンガポール居住の
関連専門家の人数:

関連経験の最低年数:

 

  1.  • 最低2名
  2.  • 関連経験(マネジメント経験又は管理者経験)の最低年数:5年

    1. ➢ 関連専門家は会社の日常業務に関してフルタイム雇用されている必要あり。
    2. ➢ 関連専門家に執行取締役、CEO及び代表者(後述)を含むのは可。

シンガポール居住の代表者
(representative)の人数

  1.  • 最低2名

    1. ➢「代表者」は、ポートフォリオの組成や配分、調査・助言、事業開拓・マーケティング又は顧客サービスといったファンド運営に関する規制された活動を行う個人を意味する。
    2. ➢ 代表者に取締役及びCEOを含むのは可。

組織形態・オフィス

  1.  • シンガポールの会社である必要あり。
  2.  • 恒久的な物理的オフィスをシンガポールに保有している必要あり。

法令遵守体制

フロントオフィスから独立した適任の人材による独自の法令順守機能が必要。運用資産が10億シンガポールドル(約850億円)以上か、それ未満かによって具体的な要件が異なる。

事業の性格、規模及び複雑性に応じた法令遵守体制を構築する必要あり。

専門家賠償責任保険加入

義務ではないが強く推奨される。

 

 

シンガポール籍ファンドの形態

 シンガポールのファンド運用会社は、オフショアファンド(例えば、ケイマン籍ファンドなど)を運用する場合もあれば、シンガポール籍ファンドを運用する場合もある。シンガポール籍ファンドの組成が検討される場合のファンド形態の選択肢とその主な特徴は、大要以下のとおりである。

 

ファンド形態

主な特徴

有限責任組合
(Limited Partnership)

  1.  • 有限責任組合法に基づいて組成される組合。法人格はない。
  2.  • 一般に組合事業を運営する無限責任組合員と組合事業運営を行わずに出資約束の限度で責任を負う有限責任組合員によって構成される。
  3.  • 一般の会社型に比較して規制が少なく柔軟性が高い。
  4.  • 財務諸表の当局提出不要。ファンドが適格投資家向けライセンス保有ファンド運用会社や登録ファンド運用会社によって運用される場合には、有限責任組合員の情報公開不要。

変動資本会社
(Variable Capital Company)

  1.  • 変動資本会社法に基づいて設立される変動資本会社。投資ファンド用に使用可能。
  2.  • 一般的なファンドビークルとして使用可能であることに加え、2以上のサブファンドを構成要素とするアンブレラファンドのビークルとしても使用可能。サブファンドは、(あたかも別法人のように)資産及び負債の分別勘定を有し、特定のサブファンドの資産は他のサブファンドの負債返済に使用できず、また特定のサブファンドは他のサブファンドと切り離して清算対象となるといった特徴あり。
  3.  • 通常の株式有限責任会社に見られる資本の返還や配当に係る規制が緩和されている。
  4.  • 定款、財務諸表、株主名簿も原則非公開(一部例外あり)。
  5.  • 2020年に導入された形態であるため、相対的に見て未だ投資家に馴染みが薄め。

ユニットトラスト

  1.  • 受託者による資産保有を前提として信託証書の締結によって組成されるユニットトラスト。シンガポールの信託は受託者法(Trustees Act)の適用対象。
  2.  • 一般の会社型に比較して規制が少なく柔軟性が高い。
  3.  • 不動産投資やインフラ投資を目的とするファンドのうち、REIT又はビジネストラストとしてシンガポール証券取引所への上場をExit戦略として描くような場合にしばしば用いられる。

株式有限責任会社
(特に閉鎖会社)

  1.  • 会社法に基づいて設立される株式有限責任会社
  2.  • 資本の返還や利益配当に係る厳格な規制あり。
  3.  • 定款、財務諸表、株主名簿は原則公開情報

 実際にファンド形態を検討する際には、当該ファンドの目的、投資運用会社の馴染みの深浅、投資家の要請や馴染みの深浅、税務上の扱い、政府の奨励プログラム、コンプライアンスコスト及び情報の秘匿性等の事情が考慮される。

以 上


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(はせがわ・よしかず)

東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科修了、Columbia University School of Law(LL.M.)卒業。三菱商事株式会社勤務、Allen & Gledhill LLP(シンガポール)出向を経て、2013年1月から長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。

シンガポールを拠点に、シンガポール、マレーシア、ミャンマーを含む東南アジアその他アジア地域において、進出、日常的な法務問題、M&A、ジョイント・ベンチャー、危機対応、エネルギー・インフラ案件等、日系企業が直面する法律問題を幅広くサポートしている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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