◇SH1861◇ベトナム:流通販売業に対する外資規制に関する重要な改正(2) 中川幹久(2018/05/25)

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流通販売業に対する外資規制に関する重要な改正(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 前回に続き、政令09号による改正のうち、実務上重要と思われる点についてご説明する。

 

経済合理性テストの適用免除の条件の変更

 外資系企業が小売の二店舗目以降の出店をする際は、都度、当該店舗が所在する地方を管轄する当局による経済合理性テストに服するが、かかる経済合理性テストの適用が免除される条件として、旧法では、店舗面積が500㎡未満で、当該地域がマスタープラン上で流通販売活動ができる地域とされ、かつ、インフラ設備の構築が完了していることが規定されていた。政令09号では、かかる適用免除の条件が一部修正され、店舗面積が500㎡未満であることに加え、当該店舗がトレードセンター内にあり、かつ、コンビニエンスストア・ミニスーパーマーケットではないこととされている。コンビニエンスストアは店舗面積が500㎡未満の小売の店舗としてベトナムでは典型的に想定される形態であったため、コンビニエンスストアが適用免除の対象から明示的に除外された点は注目される。なお、トレードセンターについては、「一棟又は複数棟の建物において集約的・継続的に複数の小売又はサービス店舗が所在する場所」と定義されているものの、どの程度の数の店舗数をもってトレードセンターと認識されるのか定かではなく、今後実務的に問題となる可能性がある。

 

小売店舗網を持つ現地企業を買収した場合の既存店舗の取扱い

 小売店舗網をすでに有する現地企業(外国投資家の出資を受けていない企業)を外国企業が買収した場合、当該現地企業は、買収後は「外資系企業」として流通販売に対する外資規制に服することになるが、その場合に、既存の小売店舗網に対して経済合理性テストが適用されるのか否か、また、適用されるとした場合にどのように適用されるのかについては旧法にはこれらを直接規定した明文は存在せず、取扱いが明確でなかった。政令09号では、この場合は、当該企業はベトナム経済産業省(MOIT)に対して小売店舗ライセンスの申請を要することが定められ、同省が申請窓口となって各店舗を管轄する地方当局に同意の可否を問い合わせ、その結果も踏まえて同省が判断をすることが定められた。小売店舗ライセンスの申請においては、申請者は経済合理性テストで審査される各要素が充足していることを示した説明書の提出が求められていることから、実質的に経済合理性テストが課されることが想定されていると思われる。しかしながら、制度の具体的な運用に関しては不透明な点が多い。例えば、地方当局のうちの一部が同意しなかった場合にどのような基準をもってMOITが最終判断をするのかについては規定が見当たらない。また、基本的に買収が完了した後に小売店舗ライセンスの申請がなされることが想定されているようであるが、買収が完了した後、MOITの判断が下されるまでの期間中、既存の小売店舗の営業は認められるのか、最終的にMOITが承認しない旨の判断を下した場合にどのような処理がなされるのかなど不明確な点は多い。小売店舗網を持つ現地企業に対するM&Aにおいては慎重な検討を要する点となろう。

 

まとめ

 以上のように、政令09号では、旧法のもとで不明確であった複数の点について明文規定を設け、明確化を図ろうとしている姿勢が伺えるように思われる。しかしながら、小売店舗網を持つ現地企業を外国企業が買収した場合の制度の具体的な運用など不透明さを残したポイントが新たに認識された節もあり、こうしたポイントに関しては、しばらくは手探り状態の実務が続くのではないかと予想される。今後の実務の動向を注視していく必要がある。

 

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