住友商事、テレワーク制度およびスーパーフレックス制度の導入
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
住友商事は、国内勤務の全社員を対象に、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3つを勤務形態とするテレワーク制度を、週に2日相当時間(14.5時間)を上限として、2018年11月より導入することを発表した。
テレワークとは、インターネットなどの情報通信技術を活用した場所にとわられない柔軟な働き方を総称する呼称である[1]。
平成30年3月に公表された国土交通省の調査[2]によれば、インターネット等を活用して普段仕事を行う事業所とは異なる場所で仕事をしたことがあると回答した雇用型テレワーカーのうち、勤務先にテレワーク制度等があると回答した人の割合はわずか9%と、普及率は未だ高くない。しかし、通勤負担軽減、育児・介護と仕事の両立などの観点から、テレワーク制度は今後本格的な普及期に入ると思われる。
そこで、以下、テレワーク制度導入に際して留意すべき主な点を挙げる。
1. 情報管理ルールの策定
会社の重要な情報(営業秘密、顧客情報、個人情報)がテレワークによって社外に漏洩するリスクを低減するための情報管理や情報機器使用のルールを整え、それを従業員にも徹底することが重要である。その内容は業種や職種にもよるが、ルールの一例として以下のようなものが考えられる。
- • 場所の制限:自宅以外でのテレワーク勤務を禁止する
- • 一定情報のアクセス制限:営業秘密データベース及び個人情報データベースへのリモートアクセスは禁止する
- • 情報端末:社内ネットワークへのリモートアクセスが可能な情報端末の特定
- • 紙媒体:会社のオフィス以外への紙媒体の持ち出しやプリントアウトを禁止する
- • 情報漏洩等の事故時の報告体制
2. 情報通信技術環境の構築
セキュリティ対策も含めて、どのような情報通信技術環境のもとでテレワーク制度を導入するのかという検討も不可欠である。情報通信技術環境については、主に以下の4つの方式があり、自社の情報管理等ルールに沿ったものをその特性に応じて選択していくこととなる。4つの方式の特徴、セキュリティ、導入条件、導入端末、コスト、留意点については、厚生労働省の資料に分かりやすくまとまっており、その一部を末尾表において抜粋した。
- • リモートデスクトップ方式
- • 仮想デスクトップ方式
- • クラウド型アプリ方式
- • 会社PCの持ち帰り方式
3. 労務管理
労務管理上、主に以下の点に留意する必要がある。
- • 就業規則への規定・届出・周知
-
テレワーク勤務における就業場所を就業規則に規定した上で、所轄労働基準監督署へ届け出を行う[3]。また、労働契約の締結に際しては労働条件通知書などで就業の場所を明示する必要がある[4]。
- • 費用負担の定め
-
テレワークに伴い発生する費用(通信費など)を従業員に負担させる場合には、当該事項を就業規則に規定しなければならない[5]。
- • 労働時間管理
- 使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時間を確認し、記録する必要がある[6]。これはテレワーク制度においても該当するため、例えば電子メールによる始業・終業時間の報告や勤怠システムへ入力により対応する。
情報通信技術の発展により利便性が高まり、場所を選ばない働き方が可能になっている。労働法制上もテレワークの活用の妨げとなるものはない。しかし、テレワーク制度の利便性には、情報の漏えいや不正使用のリスクが伴うことも認識しなければならない。利便性には相応の責任が伴うものであることを役職員が自覚し、責任を全うするためのルール作りやその遵守意識醸成のプロセスが不可欠といえる。
図表 情報通信技術環境の方式
(厚生労働省「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf の21~25頁から、各方式の特徴とセキュリティのみを抜粋)
|
特徴 |
セキュリティ |
リモートデスクトップ方式 |
手元にある端末のディスプレイ上に、オフィスに設置された端末のデスクトップを表示したウィンドウを開いて見る形になる。これは、オフィスで行っていた業務をそのまま引き続いて自宅で作業できるメリットがある。しかし、リモートで見ているデスクトップの表示サイズに表示が依存し、見にくくなる場合がある。また、回線速度によっては動作が重くなる懸念がある。 |
作業は遠隔操作で実施する。そのため、全ての作業がオフィスの端末で行っている状態と同じで、手元の端末にデータは残らない。また、保存したファイルはオフィスにある端末上に保存される。情報漏えいが起きにくいメリットがある。 |
仮想デスクトップ方式 |
手元の端末で、直接作業しているのと変わらない。ただし、作業のしやすさは回線速度に依存。 |
作業した内容はサーバに保存され、手元の端末には残らない。また、仮想デスクトップ利用者が自由にソフトウェアをインストールするのを防止することができ、OSのアップデートなどは管理者から実行可能。 |
クラウド型アプリ方式 |
あらゆる場所でどの端末を利用しても同じインターネット上の環境で作業することになる。アプリケーションで作業したデータはクラウド上に保存されるので、非常時にオフィス内の端末が使用できなくなった場合でも、他の端末からクラウドにアクセスしてデータを参照できる(BCPに役立つ)。 |
従業員の手元の端末からオフィス内の既存のサーバに直接はアクセスできない仕組みである。アプリケーションによっては、クラウド上で作成した資料をローカル環境にダウンロードすることが可能である。 |
会社PCの持ち帰り方式 |
オフィス内外に関わらず、通常業務に使用しているPCを用いる。そのため、従業員は使い慣れた端末で作業を進めることが可能。 |
PCに業務データの多くが格納された状態で社外へ持ち出すことになるため、PCの盗難や紛失による情報漏えいが発生するおそれがある。そのため、企業側からテレワーク専用のPCを貸与する場合は、十分なセキュリティ対策がなされたものを用意することが必要。例えばHDDの暗号化、外部メディア接続の制限、多重認証や生体認証等の複雑な認証要求、シンクライアントPCを採用するといった利用機能の制限、のぞき見防止フィルターの利用など。 |
[1] 場所に応じて、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3つに区分けされる(厚生労働省「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」2頁)。
[2] 平成30年3月 国土交通省国土交通省都市局都市政策課都市環境政策室「平成29年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-」https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/11/001227706.pdf
[3] 就業規則の作成・届出義務がない会社では労使協定締結や個別の労働契約において規定する。
[4] 労働基準法施行規則5条2項
[5] 労働基準法89条5号
[6] 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(平成13.4.6.基発第339号)