◇SH1172◇司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(3・完) 西田 章(2017/05/19)

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司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(3・完) 

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

3 面接対策

(1) 「緊張」と「自然体」

 就活のノウハウ本では、面接には「自然体」で臨むことが指導されています。確かに、緊張したために、面接官の質問に思うように答えられなかったとしたら、「あぁ、あのときにこう答えられていたら」という後悔につながります。

 緊張するのは、「面接官に好印象を与えたい」という心理的プレッシャーに基づくものです。そのようなスケベ心は捨てて、「受からなくてもいいから、このことだけは伝えてやろう」という具体的な野心を持って面接に臨んでもらいたいと思います。実は、面接官の側でも、初対面の候補者と会うのは緊張するので、少しぐらい候補者が緊張してくれているほうが話しやすいのです。

 

(2) ES記載の経歴の補足説明

 面接は、面接官から受験生への質問と、受験生から面接官への質問の二つのパートで構成されます。このうち、面接官から受験生への質問は、ES記載事項に基づいて行われます。面接官との話が盛り上がって時間切れになるのは問題ありませんが、受験生が要領の得ない回答を続けたが故の時間切れはバッドシナリオです。ですから、受験生は、自分の経歴の分岐点を手短に説明できるように準備しておくべきです。中学受験の理由、高校選択の理由、高校時代の部活、大学選択の理由、学部時代の生活、法曹を目指した理由、司法試験の選択科目を選んだ理由等。すべてを聞かれるわけではありませんが、どの時代のことを聞かれても、一言で即答できるショートバージョンと、面接官が興味を持って更問をしてくれたときに、初めて披露するロングバージョンを両方とも準備しておくべきです。

 面接の主導権は面接官が握っていますので、ESに記載していないことは説明する機会すら与えらません。面接で主張したいことがあれば、必ず予めESのどこかに一言でも頭出しをしておくようにしましょう。

 

(3) 面接官への質問

 面接の最後には、面接官から「何か質問はありませんか?」と尋ねられることが通例です。その場になって考え始めても、適切な質問を思い付ける可能性は極めて低いです。そのため、事前に3つから5つの質問は準備しておくべきです。

 面接官への質問で、純粋に自分の知りたいことを尋ねることができる立場にあるのは、書類選考で内定がほぼ確定している成績優秀者だけです。当落線上にいる受験生にとって、質問は「自分が何に関心を持っているか?」という志望動機の強さをアピールする最後のチャンスとなります。ここで「給料はいくらですか?」とか「若手は毎晩何時頃まで働いていますか?」などと尋ねてしまったら、「貴重な面接の機会にあなたが最も知りたい事項がそれなのですね」と面接官を落胆させてしまいます。さらに法律事務所では「うちで働くかどうか分からない者にまで労働条件を細かくは教えたくない」という要請も働きますので、待遇面を尋ねるのであれば、むしろ「パートナー昇進はいつどのような基準で決定されますか?」というような将来志向の話をするほうが意欲は伝わります。

 もし、適切な質問が思い浮かばなかった場合には、「ありません」と回答するしかありません。その場合に、「えぇっと」と自信なさそうに考え込んでしまうと、「本当はうちの事務所にあんまり関心がないんだろうな」と疑われてしまいます。同じく「ありません」と回答するにしても、「いえ、今日、お話させていただけて、すべてクリアになりました」と迷いがないことを断定できれば、面接官も後味よく面接を終えることができます。

 

結びに代えて

 本稿では、受験生の就活に関して、法律事務所への採用選考では、司法試験合格発表前においては学業成績と予備試験の順位で、合格発表後は司法試験の順位で一次スクリーニングされてしまうことを前提に私見を述べさせていただきました。しかしながら、「ペーパーテスト重視」は新卒の採用選考までの話です。中途採用市場では、候補者は「弁護士としての経験」で評価されるようになります。シニア・アソシエイトが転職するときには、履歴書よりも、職務経歴書が重視されます。最終的には、パートナーとしての弁護士の評価は依頼者が下すものです。依頼者に対して、司法試験の順位を自慢する弁護士は滑稽です。担当した案件を通じて、素早いレスポンスを返したり、丁寧な説明を尽くしたり、逆境を打破する提案をしたり、タフな交渉をまとめ上げることによって依頼者の信頼を獲得していくのです。

 企業法務を目指する受験生に対しては、受験戦争の延長線上にある「就職偏差値」的発想を捨てて、創意工夫を凝らして情報収集をして「どこにいけば、弁護士として、または、ビジネスパースンとして、よい修行を積むことができるか」を自分の頭で考えてもらいたいと期待しています。ヘッドハンターとしては、5年後、10年後に、いくつもの修羅場を経験した71期修習の弁護士を、転職市場でスカウトさせてもらえる日を楽しみにしています。  

(完)

 

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