実学・企業法務(第153回)
法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅲ〕自動車
7. 自動車の事故・事件 三菱自動車工業(以下、「M」という)の2つの事例
〔例2〕 燃費虚偽表示
2. 有価証券報告書「コーポレートガバナンスの状況等」の記載[1]
Mが日産自動車(株)(以下、「N」という。)の傘下に入ることが決まり、Mの既存のコンプライアンス管理体制を停止して、Nの経営方針に従って再構築する旨が記されている。
Mの自助努力のあり方を考えたい。
イ.企業統治の体制の概要
(c) 企業統治体制の見直し検討 (アンダーラインは筆者が付した。)
「当社は、平成28年5月12日付でNとの間で、資本業務提携の実現に向けて協議・検討進めていくことを発表した。
当社グループの改革には、開発部門を中心に企業風土・意識改革を行うことが必要であり、Nとの資本業務提携により、同社から開発部門のトップの派遣を含めた人的・技術的支援を受けて、この改革を進めていきたいと考えている。そのためには、Nとの協議を踏まえて、改めて当社グループのコーポレート・ガバナンス体制等を再検討のうえ決定する必要があると判断するに至り、監査等委員会設置会社への移行を中止した。
当社グループは今後、特別調査委員会より発表される調査結果及び再発防止策を真摯に受け止めつつ、内部統制システム及び内部統制システムの運用についても抜本的な改革を行い、その再構築・強化に全社をあげて取り組んでいく。
なお、取締役会の諮問機関として社外の有識者で構成される企業倫理委員会を設置してきたが、平成28年6月をもって終了した。」
ロ.内部統制システムの整備の状況
「当社グループは、取締役会において決議された以下の「内部統制システム構築に関する基本方針」に従って内部統制システムを整備し、運用している。
(a)取締役及び使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制
(略)・取締役会の諮問機関として社外の有識者で構成される企業倫理委員会を設置し、当社の活動について「社会の目」で指導・助言を頂き一層の企業倫理遵守を図る。」
3. 消費者庁が行う景品表示法に基づく措置命令、課徴金納付命令[2]
Mとその取引先(完成車納入先)であるNに行政処分が行われた。
仕入先の燃費偽装を発見し、その是正に努めた会社(N)に対して措置命令を発出することの意義を考えたい。
① 措置命令の概要
(1)M 〔対象〕軽自動車、普通自動車等
・ 表示が実際より著しく有利と確認し、再発防止策を講じて、役員・従業員に周知徹底すること。
・ 今後、同様の表示を行わないこと。
(2)N[3] (Mと同様の措置を命令)
② Mに対する課徴金納付命令の概要
・ 課徴金4億8,507万円の納付を命令。
[1] 三菱自動車工業㈱の有価証券報告書「(1)コーポレートガバナンスの状況 ①企業統治の体制」(2016年(平成28年)6月24日提出版)より抜粋。三菱自動車工業㈱の有価証券報告書「(1)コーポレートガバナンスの状況 ①企業統治の体制」(2016年(平成28年)6月24日提出版)より抜粋。
[2] 消費者庁「三菱自動車工業株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令及び課徴金納付命令並びに日産自動車株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」2017年(平成29年)1月27日
[3] 日産自動車は、三菱自動車からOEMで調達していた。