法務担当者のための『働き方改革』の解説(1)
働き方改革の経緯、概要
TMI総合法律事務所
弁護士 近 藤 圭 介
弁護士 本 木 啓三郎
Ⅰ はじめに
6月29日、政府が今国会の最重要課題として位置付けていた「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が成立した。
この法律は、日本の労働法制度における課題とされていた「正規社員・非正規社員の処遇の差」、「長時間労働」、「単線型のキャリアパス」について抜本的な改革を行うことを目的として、①労働基準法、②じん肺法、③雇用対策法、④労働安全衛生法、⑤労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)、⑥労働時間等の設定の改善に関する特別措置法、⑦短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム労働法」という。)、⑧労働契約法という主要な労働関連法令を網羅的に改正するものであり、「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」といわれている。
働き方改革関連法の成立により、各企業は、残業規制や非正規労働者の均等待遇・均衡待遇などの新たな規制を受けることになる一方で、高度プロフェッショナル制度の創設やフレックスタイム制の清算期間の柔軟化などにより、人事制度設計における選択肢も拡大することになる。
働き方改革関連法が労務管理実務に与える影響は極めて大きく、各企業の人事・法務担当者においては、後記Ⅱの同法の施行日までに、その対応を検討する必要がある。
Ⅱ 働き方改革関連法の全体像・施行日
働き方改革関連法による主要な改正の全体像は、下図のとおりである。
主要な改正項目 | 関連法令 |
① 働き方改革の総合的かつ継続的な推進 | |
働き方改革における基本方針等の定立 | 雇用対策法 |
② 長時間労働の是正・労働時間規制の見直し | |
時間外労働の上限規制の強化 | 労働基準法 |
フレックスタイム制の清算期間の柔軟化 | |
年次有給休暇の付与義務の新設 | |
高度プロフェッショナル制度の新設 | |
割増賃金率の中小事業主猶予措置の廃止 | |
心身状態に関する情報の保護強化 | じん肺法 |
産業医機能の強化 | 労働安全衛生法 |
心身状態に関する情報の保護強化 | |
面接指導義務等の強化・労働時間把握義務の明記 | |
勤務間インターバルの確保努力義務の新設 | 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 |
衛生委員会の労働時間等設定改善委員会みなし制度の廃止 | |
労働時間等設定改善企業委員会制度の新設 | |
③ 非正規従業員の処遇改善(同一労働同一賃金) | |
均等待遇・均衡待遇の強化 |
パートタイム労働法 労働契約法 労働者派遣法 |
待遇に関する説明義務の強化 | |
行政による履行確保措置・行政ADRの整備 |
これらの改正の施行日は、①は公布日(2018年7月6日)、②は2019年4月1日、③は2020年4月1日である。
ただし、以下の基準に該当する中小事業主については、②のうち時間外労働の上限規制の強化は2020年4月1日、割増賃金率の猶予措置の廃止は2023年4月1日、③のうちパートタイム労働法及び労働契約法の改正は2021年4月1日までそれぞれその適用が猶予される。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者数 | |
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50名以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100名以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100名以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300名以下 |
Ⅲ 本連載の内容
TMI総合法律事務所では、人事労務に精通する弁護士約20名が中心となって、働き方改革に関するワンストップサービスを提供する「働き方改革サポートデスク」を設置した。
本連載では、「働き方改革サポートデスク」に所属する弁護士により、働き方改革関連法の内容説明を中心として、働き方改革に関する解説を行うものであり、以下の構成を予定している。
Ⅰ 働き方改革関連法の概要 Ⅱ 非正規従業員の処遇改善(同一労働同一賃金) Ⅲ 長時間労働の是正・労働時間規制の見直し Ⅳ 柔軟な働き方のための環境整備 Ⅴ 総括 |