経産省、グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対する回答
美容師による顔そりサービスの取扱い
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
経済産業省は、平成30年7月4日、グレーゾーン解消制度に係る事業者からの、「美容所において、美容師を雇用し、女性客に対して化粧とそれに伴ううぶ毛剃り(頬や額を含む顔全体)を行わせるサービス」(以下「本サービス」という。)に関する照会に対して回答を行った。
産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」は、事業に対する規制の適用の有無を、事業者が照会することができる制度であり、事業者が新事業活動を行うに先立ち、あらかじめ規制の適用の有無について、政府に照会し、事業所管大臣から規制所管大臣への確認を経て、規制の適用の有無について、回答するものである(例えば、本件の場合、事業所管大臣は経済産業大臣、規制所管大臣は厚生労働大臣となる)。
今般、美容所において、美容師を雇用し、女性客に対して化粧とそれに伴ううぶ毛剃り(頬や額を含む顔全体)を行わせるサービスを行うことを検討している事業者が、グレーゾーン解消制度を活用して、「本サービスが美容師法2条の「美容」に該当し、当該サービスを美容師が業として行うことができるか」について照会を行った。
理容師法は、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることを「理容」と定義した上で、理容師の免許を受けた者でなければ、理容を業としてはならないと定める。また、理容師法の運用に関する件(昭和23年12月8日、衛発382号)(各都道府県知事宛厚生省公衆衛生局長通知)では、「化粧に附随した軽い程度の「顔そり」は化粧の一部として美容師がこれを行ってもさしつかえない」との解釈が示されていた。
今回の照会事項について規制を所管する厚生労働省に確認した結果、以下の回答が行われた。
- • 照会書に記載の事業内容については、「メイク&シェービングサロン」と謳い「シェービング」を強調して行う事業であり、「軽い程度の顔そり」を超えたサービスを求める顧客を誘引することで、その結果、「軽い程度の顔そり」を超えた顔そりが提供される可能性がある。
- • 提供されるサービスが「軽い程度の顔そり」を超えた場合には、その行為は理容に該当する。
最終的には「軽い程度の顔そり」を超えるか否かにより個別事案前に「美容」への該当性を判断する必要があろう。
なお、産業競争力強化法については、平成30年5月16日に成立した「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」により改正が行われ、同年7月9日に施行された。改正前の産業競争力強化法の下では、以下のような課題があると考えられていた。
- • 行政機関が事業者に回答する際の理由開示義務が無いため、回答趣旨が不明確でも問い合わせができず、新事業の実施に支障が生じる。
- • 適用可能性のある規制法令を特定できない、必要情報が記載された照会書等を作成できない等の理由により、行政機関の援助なしには制度の活用が困難である。
そこで、改正法では、①行政機関による回答時の理由提示と回答公表が義務化され、また、②行政機関が、関係する規制法令の特定、照会書等の作成に必要な情報提供等を行う旨が定められた。①の改正により、規制の適用関係における予見可能性を向上することにより、新事業を促進することや回答時の理由提示と公表により、他の事業者を含めた産業全体の新事業を促進することが期待される。
概念 | 内容 | 備考 |
理容 | 容姿を整えること | 理容師法1条の2 |
顔そり | 化粧に附随した軽い程度の「顔そり」は化粧の一部として美容師がこれを行ってもさしつかえない | 理容師法の運用に関する件(昭和23年12月8日、衛発382号 |
化粧とそれに伴ううぶ毛剃り | 「軽い程度の顔そり」を超えない限度で美容師が実施するのであれば許容。 | 平成30年7月4日付グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対する回答 |