インド:モディ首相の訪日と外資規制緩和の動向
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 田 島 圭 貴
1. モディ首相の訪日
今年5月に開票されたインド連邦議会下院総選挙でのインド人民党の圧勝及びそれによる政権交代を受け首相となったナレンドラ・モディ氏が、8月30日から5日間の日程で訪日した。訪日に先だって、SNS上で、訪日を楽しみにしている心境や日本に対して抱いている好印象について繰り返し日本語でつぶやくなど、親日家として知られるモディ首相だが、2012年の訪日以来、安倍首相とも良好な関係を継続しているといわれる。
「日印関係の新時代の幕開け」「日本とインドは、古くからの文化的つながりと両国民の永きにわたる親善を有する、アジアで最大かつ最古の民主主義国である」 — 9月1日に開催された日印首脳会談後には、日印両国の関係をこう表現する共同声明が発表されたが、経済・経済協力に関する共同声明の主な内容は以下の通りである。
- ・ 日本からインドへの直接投資や進出企業数を今後5年以内に倍増させることを日印共通の目標として設定
- ・ インフラ整備、クリーンエネルギー開発、製造業・農産業振興、コールドチェーン整備等のための資金として、今後5年間でODA(政府開発援助)を含む3.5兆円規模の日本からの官民投融資の実現
- ・ 投資を促進するため、税制、行政規制、金融規制等のインドのビジネス環境の改善
- ・ エネルギー面での日印協力の強化
2. モディノミクスと最近の外資規制緩和の動向
モディ首相は、インド北西部グジャラート州の州首相を2001年から2014年まで4期にわたり務めていたが、その任期中は強いリーダーシップを発揮し、同州内のインフラ整備、外国投資の積極的な受け入れ等により、インド全体の経済成長率が低迷するなかで、グジャラート州において高い経済成長率を達成した立役者として広く認識されている。かかる政治手腕がインド経済界から高く評価されていたことが、総選挙における圧勝につながった一因であると考えられているが、インド首相就任後も、「モディノミクス」と呼ばれる経済政策を掲げ、電力、道路、鉄道等のインフラ整備を推進し、外資を積極的に誘致することで、製造業を中心に経済を活性化させる政策を進めている。
かかる外資規制緩和政策の一環として、モディ政権は、8月26日に、防衛産業における外国直接投資の上限を26%から49%に引き上げ(但し、政府の事前承認が必要)、8月27日には、これまで大量高速輸送システム以外への外国直接投資が禁止されていた鉄道部門において、高速鉄道計画、貨物専用鉄道、旅客・貨物ターミナル等の鉄道インフラの建設、運用及び保守に関して、100%の外国直接投資を認めた(但し、別途鉄道省が定めるガイドラインに従うこと等の条件が付けられている。また、鉄道インフラ以外の鉄道部門への外国直接投資は依然として禁止されている)。
新幹線システムの輸出を推進している日本にとっては、広大な土地を有するインドにおいて鉄道インフラへの外国直接投資が解禁されたことは特に興味深い動きといえる。インドの鉄道は国営企業により運営されており、年間70億人以上の利用者がいるとされるが、設備の老朽化が進み、運行システムの近代化も大幅に遅れている。モディ首相は、自らが推進するインフラ整備政策の一環として、鉄道部門の近代化を強力に進める方針であり、現在、インド国内の主要都市を高速鉄道で結ぶ計画が進行中である。日印両政府は、共同で、先行するムンバイ・アーメダバード間の線路建設候補地の調査を行なっているが、上記日印共同声明においても、ムンバイ・アーメダバード間の路線に新幹線システムを導入することへの日本側の希望や、インドが新幹線システムを導入するための資金面、技術面及び運営面での支援を提供する用意が日本側にあることが盛り込まれている。
これまで、外資規制やインフラ整備の遅れ等が原因で日本からの直接投資が十分に行われてこなかった面があるインドだが、モディ首相の強力なリーダーシップのもと、外資規制の緩和やインフラ整備を進める方向に進み出しており、今後の政策の行方が注目される。
以上