◇SH1997◇債権法改正後の民法の未来42 暴利行為(4) 山本健司(2018/07/26)

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債権法改正後の民法の未来 42
暴利行為(4)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

(5) 第3ステージ

  1. ア  第3ステージでは、まず、第82回会議(H26.1.14)において、部会資料73Bの下記のような論点設定のもとに議論がなされた。すなわち、暴利行為に関する規律の在り方として、当事者の一方が過大な利益を得ることになる行為等が無効となる場合に関する明文の規定を設ける「甲案」、法律行為が無効となるかどうかは引き続き公序良俗に反するかどうかという基準に委ねつつ、暴利行為で指摘された諸事由を公序良俗違反の考慮要素として挙げる「乙案」が提案された。[1]

【 部会資料73B 】
  第3 法律行為総則
   2  「過大な利益を得る法律行為等が無効になる場合」

  1.    民法第90条に次のような規定のいずれかを設けるという考え方について、どのように考えるか。
  2. 【甲案】
     当事者の一方に著しく過大な利益を得させ、又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は、相手方の困窮、経験の不足、知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを不当に利用してされたものであるときは、無効とするものとする。
  3. 【乙案】
     法律行為が公の秩序又は善良の風俗に反するか否かについて判断するに当たっては、法律行為の内容、当事者の属性、財産の状況、法律行為に至る経緯その他一切の事情を考慮するものとする。この場合において、法律行為の内容を考慮するに当たっては、当事者がその法律行為によって得る利益及び損失の内容及び程度をも勘案するものとする。

  1.    第82回会議の議論では、「甲案」については、暴利行為の明文化自体に反対する立場からの反対意見が述べられた。また、暴利行為の明文化に賛成する立場からは、賛成する意見も述べられる一方で、「著しく過大な」という要件によって現在の判例法で暴利行為に該当する事案が該当しなくなるおそれがあるという意見(「不当」等への文言変更を求める意見など)が述べられた。
  2.    一方、「乙案」については、暴利行為の明文化自体に反対する立場から賛成する意見も述べられたが、例外的であるべき公序良俗規定の適用範囲が広がる危惧がある、公序良俗規定が私益的な公序に偏ったような規定ぶりになるといった反対意見も述べられた。
  3.  
  4. イ  次に、第88回会議(H26.5.20)において、部会資料78Bの下記のような論点設定のもとに議論がなされた。同会議で提案された「甲案」「乙案」は、第82回会議で提案された「甲案」「乙案」の修正版であった。[2]

【 部会資料78B 】
  第1 法律行為(過大な利益を得る法律行為等が無効になる場合)
   民法第90条に次のような規定のいずれかを設けるという考え方について、どのように考えるか。

  1. 【甲案】
     当事者の一方に著しく過大な利益を得させ、又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は、相手方の窮迫、経験の不足、知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを不当に利用してされたものであるときは、無効とするものとする。
  2. 【乙案】
     法律行為の当事者の一方が著しく過大な利益を得、又は相手方に著しく過大な不利益を与えることを理由に第90条の規定により当該法律行為が無効とされるかどうかを判断するに当たっては、裁判所は、次に掲げる事項を考慮するものとする。
  3.   ア 当該利益又は不利益の性質及び程度
  4.   イ 相手方の窮迫、経験の不足その他これらに準ずる事情がある場合には、その事情が法律行為をするかどうかに与えた影響の程度及び態様

  1.    第88回会議の議論では、「甲案」については、暴利行為の明文化自体に反対する立場からは反対意見が述べられた。また、暴利行為の明文化に賛成する立場から、賛成する意見も述べられた一方で、「著しく過大な」という要件が現在の判例法よりも救済範囲を狭めるおそれがある、法発展を制約するおそれがあるという意見も述べられた。
  2.    一方、「乙案」については、暴利行為の明文化に賛成する立場からは、評価する意見も、「著しく過大な」という要件を危惧する意見も述べられた。また、公序良俗規定が私益的な公序に偏ったような規定ぶりになるといった反対意見も述べられた。
  3.  
  4. ウ  さらに、第92回会議(H26.6.24)において、部会資料80Bの下記のような論点設定のもとに議論がなされた。すなわち、第88回会議で提案された「甲案」の修正版で暴利行為を明文化するか、暴利行為について新たな規定を設けないかという選択を求める形で議論がなされた。[3]

【 部会資料80B 】
  第1 法律行為(暴利行為が無効になる場合)
   暴利行為について、次のような考え方があるが、どのように考えるか。

  1. 【甲案】
     暴利行為について、次のような規律を設けるものとする。
     当事者の一方に著しく過大な利益を得させ、又は相手方に著しく過大な不利益を与える契約は、相手方の窮迫、経験の不足その他の契約についての合理的な判断を困難とする事情を不当に利用してされたものであるときに限り、無効とする。
  2.  【乙案】
     暴利行為については、新たな規律を設けない。

  1.    第92回会議の議論では、「甲案」については、暴利行為の明文化自体に反対する立場からは反対意見が述べられた。また、暴利行為の明文化に賛成する立場から、賛成する意見も述べられた一方で、「甲案」については、暴利行為の明文化に賛成する立場から、賛成する意見も述べられた一方で、「著しく過大な」「限り」という要件が現在の判例法よりも救済範囲を狭めるおそれがある、部会資料78Bより更に後退しているといった反対意見も述べられた。

(6) 要綱案

 上記のような第3ステージにおける議論の結果、第3ステージ終了時にとりまとめられた「要綱仮案」では、コンセンサス形成が困難であったという理由で暴利行為の規定は改正民法の立法対象から除外されることになった。[4]

 


[1] 第82回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900196.html

[2] 第88回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900212.html

[3] 第92回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900218.html

[4] 民法(債権関係)の改正に関する要綱案(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900244.html

 

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