◇SH1999◇債権法改正後の民法の未来43 暴利行為(5・完) 山本健司(2018/07/27)

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債権法改正後の民法の未来 43
暴利行為(5・完)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅳ 立法論義における帰結と今後の実務への影響

1 立法論義における帰結

 法制審議会における前述第2回第3回第4回)のような議論の結果、「暴利行為」規定については、立法の是非及び要件に関して意見の統一が図れないという理由により、改正民法での明文化は見送られることになった。

 しかし、上記のような民法改正論議の結論は、「暴利行為」に関する規定を民法典に条文としては規定しないということになったにすぎず、裁判実務において現に活用されている「暴利行為」という考え方の存在を否定するものでも、その重要性を否定するものでもない。

2 今後の実務への影響

 上記のとおり、裁判実務や相談現場においては、社会的弱者の被害救済等のための法理として「暴利行為」という考え方が今後も活用されてゆくことになる。むしろ、高齢化の進展と高齢者の消費者被害の増加という現状、平成30年6月の民法(親族法)改正による成人年齢の引下げに伴う若年成人の消費者被害の増加のおそれといった我が国をとりまく社会情勢に鑑みると、「暴利行為」という考え方は今後益々重要性を増して行くと思われる。また、昭和9年といったかなり古い時期に判示された伝統的準則の要件によって、現代の多様化する消費者被害の全てに対応することは困難であり、実務的には「現代的暴利行為論」が提唱するような柔軟な運用に依拠した裁判例が今後も蓄積されてゆくものと思われる。

3 国会の附帯決議

 暴利行為規定については、今回の改正民法では明文化されなかったものの、その重要性は国会の法案審議の際にも議論となり、必要に応じ今後の立法を検討することが国会の附帯決議に盛り込まれた。[1][2]

【 参議院・附帯決議 】

  1. 1 情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化による契約被害が増加している状況を踏まえ、他人の窮迫、軽率又は無経験を利用し、著しく過当な利益を獲得することを目的とする法律行為、いわゆる「暴利行為」は公序良俗に反し無効であると規定することについて、本法施行後の状況を勘案し、必要に応じ対応を検討すること
  2. 2 以下省略

 

Ⅴ 消費者契約法改正による対応

1 暴利行為規定の明文化見送りと消費者契約法改正

 高齢者の消費者被害が増加している社会情勢のもと、暴利行為規定が改正民法で明文化されなかったことを踏まえ、暴利行為の適用が問題となる事例の一部を民法の特別法である消費者契約法において救済すべく、消費者契約法の平成28年改正及び平成30年改正で一定の立法対応が行われた。

2 平成28年改正[3] = 過量契約に対する消費者取消権の導入

 まず、平成28年5月25日に成立し、平成29年6月3日から施行されている改正消費者契約法(平成28年改正法)において、事業者が消費者に対して当該消費者に必要な分量を越える商品や役務を販売・提供する消費者契約を締結させた場合(いわゆる過量契約。複数回にわたる次々販売の事案を含む)について、当該消費者に契約取消権を付与する規定が導入された(消費者契約法4条4項前段・後段)。

 これは、暴利行為論で問題とされてきた典型的な消費者被害事案の1つである過量契約の事例について、被害者である消費者に契約の効力を否定できる権利を付与する特別規定を設けたものである。

3 平成30年改正[4] = 霊感商法や恋人商法に対する消費者取消権の導入

 また、平成30年6月8日に成立し、平成31年6月15日から施行予定の改正消費者契約法(平成30年改正法)は、消費者取消権の適用対象を、①進学、容姿等に関する願望の実現に不安を抱いている消費者の不安をあおる商法、②消費者の恋愛感情を悪用する恋人商法など人間関係を濫用する商法、③高齢者など判断力の減退した消費者の不安をあおる商法、④いわゆる霊感商法(①~④の4つの被害類型)に拡張することを定めている(改正消費者契約法4条3項3号~6号)。

 これは、暴利行為論で問題とされてきた典型的な消費者被害事案の1つである「消費者が合理的な判断をすることができない心理状態にあることを作出ないし濫用して事業者が不必要な契約をさせる不当勧誘事案」(いわゆるつけ込み型不当勧誘事案)のいくつかの具体的な被害類型について、被害者である消費者に契約の効力を否定できる権利を付与する特別規定を設けたものである。

 一方、平成30年改正法では、上記4つの被害類型に消費者取消権を肯定しているのみであり、「つけ込み型不当勧誘事案」の全てに包括的に消費者取消権を肯定する規定の導入については見送られた。

 「つけ込み型不当勧誘事案」の全てに包括的に消費者取消権を肯定する規定の導入は、内閣府消費者委員会が平成29年8月に公表した「消費者契約法の規律の在り方についての答申」でも喫緊の課題とされている問題である。その重要性は国会の法案審議の際にも議論となり、2年以内に対策を講じることが国会の附帯決議に盛り込まれた。[5]

【 参議院・附帯決議 】

  1. 1~3 省略
  2. 4 高齢者、若年成人、障害者等の知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)の創設について、消費者委員会の答申書において喫緊の課題として付言されていたことを踏まえて早急に検討を行い、本法成立後二年以内に必要な措置を講ずること。
  3. 5~ 省略


以上



[1] 衆議院・民法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/houmuC76D5B412F2167BC49258102001D1698.htm

[2] 参議院・民法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/193/f065_05251.pdf

[5] 参議院・消費者契約法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/f421_060601.pdf

 

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