◇SH0120◇東京地裁、グーグルの米国本社に対して検索結果の削除を求めた仮処分申請を一部認める決定 臼井幸治(2014/10/29)

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東京地裁、グーグルの米国本社に対して検索結果の削除を求めた仮処分申請を一部認める決定

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 インターネットの最大手検索サイト「グーグル」で自分の名前を検索すると、犯罪に関わっているかのような検索結果が出てくるため、プライバシーを侵害されているとして、日本人男性が、「グーグル」の米国本社に対し、検索結果の削除を求めていた仮処分申立事件において、検索結果の一部削除を命ずる仮処分決定が、平成26年10月9日、東京地裁で出された。

 本年8月25日付タイムラインの記事でも紹介されている通り、過去の裁判例では、「グーグル」の米国本社に対し表示差止と30万円の賠償を命じた先例(なお、当該一審判決は高裁で破棄されている)があるものの、当該判決で差止が認められたのは、いわゆるサジェスト機能(関連単語を予測して自動表示する機能)を用いた表示であり、「検索結果」の削除が認められたものではなかった。検索サイト運営者に対し、「検索結果の削除」を命ずる仮処分決定がなされたのは国内初ではないかと思われ、その意味で画期的な決定であると考えられる。

 また、当該決定は、本年8月25日付タイムラインの記事でも紹介された、原告の「グーグル」に対する検索結果削除請求を認容した本年5月13日付欧州司法裁判所判決と通ずる側面がある一方、同判決では、リンク先に権利侵害の情報が存するか否かを検討の上、権利侵害の情報が存するため、検索結果の削除を命じているようであるが、上記東京地裁決定では、検索結果の内、その「表題」と「サイトの文章の抜粋」から、著しい損害を与えるおそれがあると判断されたものについて、検索結果の削除を命ぜられているようである(※)。

 そのため、リンク先に著しい損害を与える内容の記事が記載されていたとしても、その「表題」と「サイトの文章の抜粋」からは当該損害を与えると判断されない検索結果については、削除対象とはならないものと考えられ、この点には留意が必要である。このような判断は、インターネットにおける検索エンジンの利用を制限することによる不利益と個人の人権救済を調整する観点から、リンク先に著しい損害を与える内容の記事が記載されていた場合には、リンク先のウェブサイトの管理者に削除を求めることによって権利救済を図るべきとの価値判断に基づくものと推測される。

 なお、本年10月22日以降の報道によると、日本人男性側から東京地裁に対し、同月21日、間接強制の申立(削除をしない場合、1日当たり●●円の支払いを命ずる決定の申立)を行ったところ、同月22日には「グーグル」日本法人より、「裁判所の決定を尊重して仮処分に従う」との方針が示され、上記東京地裁決定において削除が命じられた検索結果の大部分が表示されなくなったとのことである。

 上記東京地裁決定は、インターネットにおける検索エンジンの利用を制限することによる不利益と、個人の人権救済をどのように調整していくのかという点につき司法の一判断を示しており、また、上記東京地裁決定を受けて「グーグル」が検索結果の削除に応じたことで、今後の実務に与える影響が大きく注目されるところである。

 

※上記東京地裁決定の内容については、申立代理人弁護士の下記URLにおける発言に基づき、分析を行っている。

 http://www.bengo4.com/topics/2160/

以上

各裁判例の特徴

裁判

裁判内容

東京地方裁判所平成25年4月15日判決

(なお、同判決は高裁で破棄)

「サジェスト機能を用いた表示」の削除を命じた。

欧州最高裁判所平成26年5月13日判決

(欧州司法裁判所判決)

「リンク先」に権利侵害の情報が存するか否かを検討の上、権利侵害の情報が存するため、「検索結果」の削除を命じた。

東京地方裁判所平成26年10月9日決定

(本件東京地裁決定)

検索結果の内、その「表題」と「サイトの文章の抜粋」から、著しい損害を与えるおそれがあると判断されたものについて、「検索結果」の削除を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うすい・こうじ)

岩田合同法律事務所弁護士。2001年慶應義塾大学卒業。2006年弁護士登録。メガバンク及び大手総合商社法務部への出向等、企業における実務経験も豊富。企業法務全般、訴訟紛争解決、組織再編、再生可能エネルギーに関連するファイナンス組成等、幅広い分野に対応。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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