経団連、企業行動憲章に関するアンケート調査結果を公表
――昨年の改定内容を踏まえた対応状況――
日本経済団体連合会は7月17日、企業行動憲章に関するアンケート調査結果を公表した。
企業行動憲章については、昨年11月8日に改定を行っており、経団連では、その改定ポイントを中心に企業会員等の取り組み状況や事例を把握し、一層の理解促進、取り組みの進展につなげることを目的として、今年3月から6月にかけて本アンケートを実施したものである。回答状況は、経団連企業会員1,373社中302社(回答率22.0%)、経団連団体会員156団体中25団体(同16.0%)であった。
以下、アンケート結果の概要を紹介する。
Ⅰ 企業行動憲章の改定を踏まえた取り組み
企業行動憲章の10か条それぞれについて、回答企業の9割前後が「自社またはグループの行動規範や指針、経営戦略、経営計画等で取り扱っている」と回答している。
改定を受けて、各条文について2割前後の回答企業が「見直して強化した、2018年度に見直す予定(見直し済・見直す予定)」と回答している。その割合の多い項目は、「第1条 持続可能な経済成長と社会的課題の解決」、「第6条 働き方の改革、職場環境の充実」、「第4条 人権の尊重」であった。
実行の手引きの項目に関する「見直し済・見直す予定」については、新しく設けた項目を中心に、働き方の改革、人権を尊重する経営、サイバーセキュリティの確保が上位にきており、改定の効果があらわれている。
Ⅱ 持続可能な経済成長と社会的課題の解決への取り組み(第1条)
1 「持続可能な社会の実現」の理念の経営への統合
企業行動憲章の理念である「持続可能な社会の実現」を「経営理念」や「企業行動に関する規範・指針」に反映しているとの回答は8割で、「経営戦略」や「中長期経営計画」は6割前後であった。さらなる進展のためには、理念を経営戦略や経営計画に落とし込む必要がある。
経営戦略への落とし込みは、業種別では差がないが、規模別では売上高5,000億円未満の企業の方が2割程度少なくなっている。規模にあわせた取り組みに関する情報提供が求められる。
2 持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み
SDGsを活用してすでに実施している取り組みについては、SDGsの経営への統合の第1段階とされる「事業活動をSDGsの各目標にマッピング」でも35%にとどまっている。しかし、「検討中、検討予定」の企業が実行に移せば、もっとも実施が難しい「バリューチェーン全体の影響領域の特定」も含め7割を超えることになる。
SDGsの社内への理解・浸透に向けた取り組みは、「CSR部門等からの発信」(63%)や「経営トップからの発信」(50%)が、「経営者を対象とした勉強会」(34%)や「社員を対象とした研修」(38%)に先行している。
経団連としては、SDGsのさらなる浸透と活用に向けて、ベスト・プラクティスの共有、海外の推進機関と連携したツールの開発、ワークショップの実施など支援活動を拡充することが求められる。
3 SDGsの17目標への取り組み状況
回答企業における重点的な取り組みとして多かったのは、
「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」
「目標13:気候変動に具体的な対策を」
「目標8:働きがいも経済成長も」
の順となっている。取り組んでいる目標をあわせた場合でも、同様の傾向となっており、事業との関連が高い経済・環境に関する目標への取り組みが進んでいる。
一方、国連がもっとも重視している貧困や飢餓への取り組みは少なく、これらの目標に企業が取り組むには、より具体的な課題提示や協働のプラットフォームづくりなどが必要になると考えられる。
Ⅲ 人権に関する取り組み(第4条)
1 人権の尊重に関する方針の策定と対応状況
人権の尊重に関する方針は、8割以上の企業が「既に策定」「策定予定」「策定を検討」している。
自社およびバリューチェーンにおける人権に関する課題に「十分対応している」との回答は半数にとどまっているが、「①職場環境・労働安全」「②雇用と職業における差別の排除」をはじめ、すべての項目で強化する傾向が見られる。また、データ社会で重要になっている「⑥プライバシーの保護」を見直す企業も多い。
2 人権を尊重する仕組みの導入状況
人権を尊重する仕組みとして、「責任者や担当部門の設置」「人権相談窓口の設置」等の体制整備や教育・研修は進んでいる。一方、国連の「ビジネスと人権原則」で求められている、事業活動の人権への負の影響(人権リスク)を特定・防止・軽減し、発生したリスクにどのように対処するかという継続的なプロセス、いわゆる「人権デューディリジェンス」に関連する項目に取り組んでいる企業は、30%前後にとどまっている。
国際的に人権デューディリジェンスへの関心が高まる中、日本企業の国際競争力の強化のためにも、さらなる取り組みが求められる。
IV 情報開示およびステークホルダーとの建設的対話への取り組み(第3条)
1 E(環境)S(社会)G(ガバナンス)情報などを開示している理由
ESG情報などを開示している理由について、もっとも重視するものでは「投資家や格付・評価機関への対応のため」が多く、「企業価値・ブランド向上のため」、「持続可能な社会の実現のため」が続いている。ESG情報は、主に投資家や格付・評価機関を対象としているものの、多様なステークホルダーとのコミュニケーション・ツールとなっていることがわかる。
2 企業価値の向上のためのESG情報の開示と対話
ESG情報の開示にあたり、企業価値の向上に資するために、「経営戦略」「中長期経営計画」「重点課題(マテリアリティ)」と関連づけて説明しているとの回答がそれぞれ50~60%であった。
株主・投資家との対話のうち、ESG投資、SDGsへの対応をテーマに行っているのは「IRミーティングでの説明」であるという回答が47%ともっとも多い。「ESGやSDGsに関する個別面談の実施」(31%)や「株主総会での説明」(29%)はいずれも約3割で、今後の強化が求められる。
評価機関や機関投資家における評価をめぐる課題もあり、個別企業だけでなく、日本の産業界全体としての対応も必要になる。
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経団連、企業行動憲章に関するアンケート調査結果(7月17日)
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/059.html -
○ 企業行動憲章に関するアンケート調査結果 主要結果
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/059_shuyo.pdf -
○ 企業行動憲章に関するアンケート調査結果
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/059_kekka.pdf -
参考
SH1507 経団連、企業行動憲章を改定(2017/11/20)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=4882402 -
○ 企業行動憲章
http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.html -
○ 企業行動憲章 実行の手引き(第7版)
http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/tebiki7.html