◇SH2024◇シンガポール:証券取引所における議決権種類株式上場制度の導入 松本岳人(2018/08/09)

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シンガポール:証券取引所における議決権種類株式上場制度の導入

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

 Singapore Exchange(シンガポール証券取引所。以下「SGX」という。)は、2018年6月26日に上場規則を改正し、Dual Class Shareの上場制度を導入した。具体的には、議決権の数が異なる種類株式(議決権種類株式)を発行する会社において、議決権の少ない種類株式を上場させることなどが認められることとなった。かかる議決権種類株式の上場制度は、創業者が議決権の多い株式を保有したまま、議決権の少ない株式を上場することにより、創業者が会社の支配権を維持したまま株式市場による資金調達をすることができる手段として、アメリカではGoogleやFacebookが上場した際に採用されたことでも知られており、近年もテクノロジー系のベンチャー企業などを中心に注目を集めている。議決権種類株式の上場制度について、東京証券取引所は2008年に上場規則を整備し、香港証券取引所でも2018年4月の上場規則の改正により認められることとなった。アジア地域における証券取引所間の競争関係も激しくなるなか、積極的に外国企業の上場誘致を進めるSGXとしても証券取引所としての魅力を高めるために、議決権種類株式の上場を解禁することとなった。

 議決権種類株式の上場制度は、支配権の喪失を理由に上場を躊躇していた未上場企業にとっては魅力的な手法であり、資金調達手法を多様化するとの好意的な評価を得ている一方で、リスク負担と支配権が比例しないため株主の平等を損なう、特定の株主に支配権が集中することでガバナンスに歪みを生じるといった否定的な評価も根強い。そのため、SGXの上場規則では、議決権の少ない株式の株主の権利が不当に侵害されることがないよう一定の制限が設けられている。主な制限としては次のようなものがある。

  1.  •  定款変更、種類株式の権利変更、独立取締役の選解任、会社の清算及び非上場化といった一定の事項については株式の種類にかかわらず、一株一議決権とする必要がある。
  2.    監査委員会、指名委員会、報酬委員会の各委員会の過半数及び各委員会の議長は独立取締役で構成する必要がある。
  3.    複数議決権株式の議決権数は、普通株式の10倍以内に制限される。
  4.    複数議決権株式を保有する株主及び保有することが許容される者を新規上場時に特定する必要がある。
  5.    複数議決権株式の保有が許容される者以外に譲渡された場合などの一定の条件を満たした場合には種類株式が自動的に普通株式に転換される条項(いわゆるサンセット条項)を設ける必要がある。

 起業家のニーズと投資家によるガバナンスとのバランスも意識した新たな上場規則の下で、SGXが起業家、投資家の双方にとって魅力のある証券取引所として更なる発展を遂げられるか今後の動向に注目したい。

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