厚生労働省、裁量労働制の運用の適正化に向けた自主点検結果を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 村 上 雅 哉
厚生労働省は、本年2月、裁量労働制を導入している全国約1万3千の事業所に対し、裁量労働制の自主点検に係る調査票を送付していたところ、今般、その調査票に対する回答結果をまとめたデータを公表した。このような全国規模での調査が実施された背景には、裁量労働制を不適切に運用する事業所が多々見受けられることがある。
労働基準法は、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす裁量労働制を設けており、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制が定められている。
これら2種類の裁量労働制においては、時間外労働について残業代を支払わなくてよいとか、深夜残業代を支払わなくてよいと誤解する向きもある。しかし、裁量労働制の対象従業員についても、休憩(労働基準法34条)、休日(同法35条)、時間外・休日労働(同法36条・37条)、深夜業(同法37条)の法規制は依然として及ぶので、みなし労働時間数が法定労働時間をこえる場合には、三六協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要であるし、深夜時間帯に労働が行われた場合には、割増賃金の支払が必要となる。
今回の自主点検結果(本稿末尾に専門業務型と企画業務型のそれぞれについての自主点検結果を掲載する)においても、「みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合で三六協定が未締結、割増賃金が未払」となっていることや、「法定休日労働や深夜労働がある場合で三六協定(休日)等が未締結、割増賃金が未払」となっていることなどが、改善が必要な項目としてリストアップされている。
また、専門業務型裁量労働制は、厚生労働省令によって限定的に列挙された19の業務だけがその対象となるものの、実際には「対象労働者の業務に対象業務以外の業務が含まれている」事例が見受けられ、今回の自主点検結果(専門業務型)においても、改善項目として挙げられている。裁判例においても、労働者が従事するプログラミング業務が専門業務型の対象である情報処理システムの分析・設計に当たらないと判断された事例が存在する(大阪高判平成24年7月27日・労働判例1062号63頁)。
他方、企画業務型裁量労働制は、通常のホワイトカラーの業務にも裁量労働の考え方を導入するものであり、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務が対象とされている。もっとも、実際には企画業務以外の業務、例えば営業に携わる従業員を対象としている事例が見受けられる。また、同制度の対象労働者については、どこで、何時間、どのように業務を遂行するかの自由(自律性)が与えられていなければならず、業務の遂行の手段や時間配分等について具体的に指示がなされることが予定されていないにもかかわらず、実際には、始業・終業時刻を定めたり、日常的に上司が具体的な指示をしている事例が見受けられ、今回の自主点検結果においても「日常的に上司が具体的な指示をしたり、業務遂行の手段について指示する場合がある」事業場や「始業・終業時刻を定めておりそれを順守させる場合がある」事業場について改善が必要とされている。
昨年には、大手デベロッパーが営業職の社員に対して企画業務型裁量労働制を違法に適用していたとして、社名を明らかにして是正勧告がなされたこともあり、社会的に問題となった。厚生労働省によれば、今回の自主点検についても、自主的な改善が見込めない事業場に対しては、監督指導を実施し、改善を促していくとのことであり、レピュテーションが毀損されるリスクを回避するためにも、裁量労働制を導入する企業としては、その制度の内容について十分に理解し、適切な運用をすることが求められているといえよう。
以上