◇SH0603◇法のかたち-所有と不法行為 第十一話-1「自然と所有の法-伝統社会、環境・生態系」 平井 進(2016/03/22)

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法のかたち-所有と不法行為

第十一話  自然と所有の法-伝統社会、環境・生態系

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

 この随想で「法のかたち」として所有の法関係についてとり上げているのは、それが歴史的、世界的に人々の生活のあり方に大きく関わっているからである。

  ここでとり上げたいのは、従来、人々が生活していた場において形成されていた法関係とそれを「近代化」するということの意味である。

 

1  民法典論争と入会慣行

 明治のいわゆる民法典論争において、旧民法に対する批判については、穂積八束の「民法出デテ忠孝滅ブ」というようなイデオロギー的なものがよくとり上げられるが、実際には、そこに入会権の規定がないというように、従来の慣習の扱いに関する問題が大きかったとされる。[1]

 民法第92条(任意規定と異る慣習)と共に、慣習の地位が公式に認められたのは、民法制定と同じ明治31年の法例の第2条「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反セサル慣習ハ法令ノ規定ニ依リテ認メタルモノ及ヒ法令ニ規定ナキ事項ニ関スルモノニ限リ法律ト同一ノ効力ヲ有ス」である。

 日本の民法制定における特色の一つは、欧米にはない慣行に関する取扱いであった。第八話で述べた明治6年からの地租改正によって、従来の入会慣行においてその地盤の所有という関係が入り、所有権者が入会の権利を否認することによる紛争が多発することになった。

 しかし、旧民法は入会の権利に関して規定がなく、これに対して、穂積八束らはその「欠点ノ甚ダシキモノ」と非難し[2]、法典施行論であった磯部四郎も、「入会権ノコトハ既成法典ニナイト云フノガ殆ンド延期ノ一理由ニナツタ位デ」と述べている。[3]

 法典調査会では、当初、これを役権と見ようとしていたのであるが、起草委員はその概念付けに苦労し[4]、起草委員以外から共有権としての提案もなされている。[5]最終的には、共有の性質を有するもの(第263条)と有しないもの(第294条、地役権を準用)とに分けられ、いずれも各地方の慣習に従うこととされた。(共有と地役権とに分類することは本質的ではないので)結局、日本の慣習を法概念化することは持ち越されたのである。



[1] 参照、福島正夫・清水誠「明治二十六年全国山林原野入会慣行調査資料」(1956)解説8頁。福島正夫編『穂積陳重立法関係文書の研究』日本立法資料全集・別巻1(信山社, 1989)所収。

[2] 明治25年4月の法学新報第14号社説「法典実施延期意見」。

[3] 明治27年の第31回法典調査会。

[4] 役権としては人役権が適するとしても、それを民法が認めておらず、また地役権としては、要益地がないこと等が問題とされた。参照、福島他・前掲10頁。

[5] 参照、北条浩『入会の法社会学(上)』(お茶の水書房, 2000)372-373頁。

 

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