債権法改正後の民法の未来 47
付随義務・保護義務(1)
北浜南法律事務所
弁護士 阪 上 武 仁
1 最終の提案内容
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「3 付随義務及び保護義務
(1) 契約の当事者は,当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても,相手方が当該契約によって得ようとした利益を得ることができるよう,当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする。 - (2) 契約の当事者は,当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても,当該契約の締結又は当該契約に基づく債権の行使若しくは債務の履行に当たり,相手方の生命,身体,財産その他の利益を害しないために当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする。
- (注) これらのような規定を設けないという考え方がある。」[1]
2 提案の背景
契約の当事者は、当事者間で合意された義務のほか、相手方が契約を通じて獲得することを意図した利益を獲得することができるように必要な行為をする義務(付随義務)、相手方の生命・身体・財産などその他の利益を害しないように必要な行為をする義務(保護義務)を負うことについては、民法上、信義則以外に規定が設けられていない。しかし、個別の事実関係の下で、契約当事者がこれらの義務を負うことを認めた裁判例は多く(最三判昭和50・2・25民集29巻2号143頁、最三判平成17・7・19民集59巻6号1783頁、最二判平成17・9・16判時1912号8頁など)、また学説上も支持されていることから、そのルールを明文から読み取ることができるようにするために提案されたものである。[2]
3 議論の経過
(1) 経過一覧
本論点についての議論の経過は、下記一覧表のとおりである。
なお、本論点については、第1読会である第9回会議以降、「債権債務関係における信義則の具体化」という表題で議論されたが、第67回会議において検討された部会資料56で「付随義務および保護義務」という表題に改められた。
会議 | 開催日等 | 資料等 |
第9回 | H22.5.18 | 部会資料11 |
第22回 | H23.1.25 | 部会資料22「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理のたたき台(2)」 |
中間的な論点整理 | H23.4.12決定 | 中間的な論点整理案 |
第48回 | H24.6.5 | 部会資料41 |
第3分科会第4回会議 | H24.7.10 | 分科会資料6 |
第67回 | H25.1.22 | 部会資料56「民法(債権関係)の改正に関する中間試案のたたき台(4)(概要付き)」 |
中間試案 | H25.2.26決定 | 民法(債権関係)の改正に関する中間試案 |
第84回 | H26.2.25 | 部会資料75A、大阪弁護士会有志案「部会資料75に対する提案」 |