◇SH0441◇インドネシア:言語法をめぐる判決確定 福井信雄(2015/10/09)

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インドネシア:言語法をめぐる判決確定

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 「インドネシア法人を当事者とする英語のみで締結された契約は言語法に反し無効」-インドネシアで2013年から争われてきた契約の締結言語を巡る裁判が、去る8月31日、最高裁が上告を棄却する形で終結した。

 この件は、米国法人・インドネシア法人間で締結された英文のローン契約が、インドネシア語での契約締結を義務づけるインドネシアの言語法に違反することを理由にその有効性が争われていたものである。インドネシアでは2009年、国旗、国語、国章及び国歌に関する法律(2009年法24号)(通称「言語法」)が制定され、インドネシア政府・インドネシア法人・インドネシア人が当事者に含まれる契約書に関してはインドネシア語での締結が義務づけられているところ、これに違反して外国語のみで契約を締結した場合の契約の有効性については法律上明確で無かったことから、これまではインドネシア語版は作成しないという実務も少なからず行われてきた。(過去の実務に関する詳細については拙稿「言語法を巡る紛争の今」(https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=539499)を参照されたい。)

 本件はインドネシア語で締結されていないことを理由に契約自体が無効という判決が2013年に西ジャカルタ地裁で出され、その後の判断が法律実務家の間でも注目されていたものであるが、インドネシア最高裁は8月31日付けで上告を棄却する判断を下し、西ジャカルタ地裁の判決がそのまま確定した模様である。

 インドネシアの裁判例には先例拘束性が無いとされているため最終的に立法的な解決がなされるまでは依然不明瞭な状態が続くことにはなるものの、法的安定性の観点からは、実務上契約のインドネシア語版を作成しないという選択肢は一段と採りづらくなったと言え、今後外国法人等がインドネシア法人等との間で新たに契約を締結する場合には、当初より英語版とインドネシア語版を同時に締結するべきであろう。また、2009年の言語法の施行以降に締結された契約書でインドネシア語版を備えていないものについては、特に重要性の高いものや将来契約の相手方と紛争が生じる可能性があるもの、契約期間が長期にわたるものなどは、今からでもインドネシア語版を作成し締結するということも検討すべきであろう。

 

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