SH2093 法律文書の読解入門(6)――ふくおかFG/十八銀行(1) 白石忠志(2018/09/18)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

法律文書の読解入門(6)
ふくおかFG/十八銀行(1)

東京大学教授

白 石 忠 志

 

 独禁法の話題としてはかなり広い範囲の注目を集めた長崎県の地銀の企業結合事例について、平成30年8月24日、公取委がクリアランスをしました。クリアランスとは、企業結合の事前審査の結果として競争当局が青信号を出すことを、世界中で便宜上このように呼んでいるものです。日本では公式には「排除措置命令を行わない旨の通知」と呼ばれています。問題解消措置が条件とされる場合があります。

 このコーナーでは、クリアランスと同時に公取委が公表した19頁にわたる文書の構造を、簡単につかんでみたいと思います。この文書は、下記PDFファイルにおいて「別紙」となっており、本稿では便宜上これを「審査結果」と呼びます。

公取委ウェブサイトの原文PDFファイル(平成30年9月8日確認)

 

1 条文

 審査結果を読む前に、本件が独禁法に違反するか否かを論ずるための条文を確認しましょう。独禁法10条1項です。

 株式を取得する「会社」はふくおかフィナンシャルグループであり、株式を取得される「他の会社」は十八銀行です。ふくおかフィナンシャルグループは、既に、十八銀行の競争者である親和銀行を子会社としています。そこで、十八銀行と親和銀行が実質的に一体となることによる競争上の弊害が生じる場合には、この株式取得が禁止されることになります。条文では、「株式を取得……することにより……一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には……当該株式を取得……してはならない」と表現されています。

 「こととなる」という文言は、株式取得をした瞬間に競争の実質的制限が生ずる必要がないことを示し、株式取得をすると競争の実質的制限が生ずる蓋然性が高くなるというだけで要件が満たされることを示していると考えられています。

 

2 主な「一定の取引分野」

 「一定の取引分野」(いわゆる市場とほぼ同義です。)は、1件の企業結合において1個とは限りません。複数個が存在するのがむしろ普通であり、そのうち1個でも「競争を実質的に制限することとなる」ならば違反となります。

 本件で出てきた「一定の取引分野」は、大雑把に言うと、以下のようになります。本当は、審査結果2〜6頁を見ると更に多くの「一定の取引分野」が出てきているのですが、公取委が6頁末尾の「第5」以下で検討しているものに絞って、以下に掲げます。

 ・ 大企業・中堅企業向け貸出し
  ・ 地理的範囲は「長崎県」
 ・ 中小企業向け貸出し
  ・ 地理的範囲は
   ・「長崎県」
   ・ 以下の「経済圏ごと」
    ・ 県南経済圏
    ・ 県北経済圏
    ・ 県央経済圏
    ・ 対馬経済圏
    ・ 壱岐経済圏
    ・ 五島経済圏
    ・ 小値賀経済圏
    ・ 新上五島経済圏

 中小企業向け貸出しの「一定の取引分野」が、「長崎県」と「経済圏ごと」のように重畳的となっているのは、一般論としてはあり得ることです。本件でそのようにしたことについては、私は、適切でないのではないかと考えていますが、それは独禁法の中身の議論ですので、割愛します。


 本稿は《なるべく短く》をモットーとしていますので、今回はこのあたりまでとします。

 次回以降、上記の10個の「一定の取引分野」について、

  1. ①「競争を実質的に制限することとなる」とされたか
  2. ② 問題解消措置の申出はどのようであったか
  3. ③ それらに対する公取委の評価はどうであったか

を確認する予定です。

 「一定の取引分野」ごとに①・②・③がまとめて書かれていれば読みやすいのですが、そうではなく、まず①を全てについて述べ(原文では6頁からの「第5」)、次に②を全てについて述べ(原文では15頁の「第6」)、最後に、③を全てについて述べる(原文では16頁からの「第7」)、という組立てになっていることに、ご留意ください。

 

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