債権法改正後の民法の未来 57
約款・不当条項規制(5)
清和法律事務所
弁護士 山 本 健 司
Ⅲ 議論の経過
2 議論の概要
(4) 中間試案
第2ステージ終了時にとりまとめられた「中間試案」では、「約款」問題と「不当条項規制」問題が統合され、「第30約款」として、下記のようにとりまとめられた。[1]
【 中間試案 】
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すなわち、中間試案では、①「約款の定義」について、「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうもの」とする考え方が示された。「契約の内容を画一的に定める目的」という要件を付加することで、交渉による修正を想定して用いる場合における契約書のひな形を除外するとされた。そのうえで約款に関する規律について反対意見があることも付記された。
また、②「約款の組入要件」については、組入合意に加えて、「契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合」であることを要するとの考え方が示された。そのうえで、明示的な開示を原則的な要件としたうえで、開示が困難な場合に例外を設ける考え方もあることが付記された。
さらに、③「他の契約条項の内容、約款使用者の説明、相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らし、相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないもの」は組入除外とするという内容の「不意打ち条項」に関する規定を設ける考え方が示された。
加えて、④「約款の変更」について、「ア約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性、イ当該約款を使用した契約が現に多数あり変更同意を得ることが著しく困難、ウ変更内容が合理的で、変更の範囲及び程度が相当なものであること、エ変更内容が相手方に不利益なものである場合における適切な措置」という実体要件と、事前の合理的な方法による周知という手続要件のもと、約款変更を許容する規定の是非を継続検討する考え方が示された。
さらに、⑤「不当条項規制」について、適用対象を組入要件によって契約内容となる約款条項に限定したうえで、「当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するものであって、その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には、無効とする」という一般条項を規定するという考え方が示された。そのうえで約款に関する規律について反対意見があることも付記された。併せて、約款条項以外の契約条項に関する不当条項規制は設けない、個別合意のある契約条項は不当条項規制の適用除外とする、中心条項を適用除外とする明文規定は置かずに解釈に委ねる、不当性判断の比較対象は明文の任意規定に限定しない、「契約内容の全体」を考慮要素に明記することで他の契約条項を含めて契約全体で問題となる契約条項の不当性を考慮することを要する、不当性判断を個々の相手方との関係で個別に判断するか、画一的に判断するかは明定せずに解釈に委ねる、具体的な不当条項リストは定めない、不当条項の効果は無効とするといった不当条項規制の立法の方向性が示された。
以下では、中間試案の上記とりまとめに従い、それまでの「約款」「不当条項規制」という2論点を統合した「約款」問題として、論稿を進める。
[1] 民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(www.moj.go.jp/content/000112247.pdf)