個人情報委、英国のEU離脱に伴う影響について
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
個人情報保護委員会(以下「個人情報委」という。)は、平成30年10月4日、英国のEU離脱に伴う個人データの取扱いに関する影響に関する事項を公表した。
1. 英国・EUの動き
2016年6月に英国でEU離脱に関する国民投票が実施され、「離脱」派が過半数を獲得した。その後、英国は、2017年3月に、EU条約(リスボン条約)に基づき、EUに対してEU離脱を正式通知した。これを受けて、英国とEUは、同年6月に当該離脱に関する交渉を開始し、同年12月に、在英EU市民・在EU英国市民の権利保障、アイルランドとの国境問題、財政問題の解決(清算)などに関する離脱条件をめぐって大筋合意した(第1段階)。
2018年に入り英国とEUで第2段階の交渉が行われ、同年3月には、移行期間の設置を含む英国とEUの間の離脱協定案が公表された。英国は上記離脱通知に従えば2019年3月30日にEUを離脱することになるが、離脱協定案は、同日から2020年12月31日までの移行期間を設置し、移行期間中は英国にEU法を適用することなどを定める。移行期間が実際に設定されるかについてEUと英国における協定の批准のスケジュール等を勘案すると2018年10月頃までに離脱協定の合意に達しないと2019年3月30日までに離脱協定の批准が完了しない可能性が高いとされている。この場合のシナリオとして、英国が取決めなしにEUを離脱するケース(合意なき離脱、いわゆる「ノー・ディール」)や交渉期間延長が行われるケースなどが想定される。
EUは、2018年7月19日、英国のEU離脱に対して備えることを関係者に対して要請する文書を公表した。同書は、対策の実施・不測の事態に備えた計画(コンティンジェンシープラン)(事業への影響の評価、必要な手順の決定等)の必要性などを指摘している。
さらに、英国は、「ノー・ディール」となる場合の備えとして、2018年9月13日に、データ保護に関するガイダンス(Data protection if there’s no Brexit deal)を公表した。同ガイダンスでは、「ノー・ディール」の場合には、2019年3月30日以降は、EU 拠点の組織(又は子会社)から英国拠点の組織に個人データの移転を行うことを規定する法的枠組みが変更されることになり、EU の組織が英国に個人データを移転する際には別途対応を行う必要が生じることが述べられている。英国のEU離脱時点でEUが英国の個人データ保護に関する十分性認定を完了していない場合には標準的契約条項を活用することが考えられる。
2. 個人情報委の対応
個人情報委は、2018年10月4日、英国・EU間の個人データの移転に係る取決めが離脱時までに明らかにならない場合等においても、個人データの取扱いに支障が生じないよう、本人同意等による方法により、余裕をもった対応を行うよう留意すべき旨を公表した。
併せて、個人情報委は、①離脱時点において、日英間の円滑な個人データの移転を確保していくことについて、同委員会と英国当局との間で一致していること、②同委員会としては、日本企業の円滑な個人データ移転に支障を来すことのないよう英国及びEU当局に対して申し入れるとともに、情報収集に努めていることも公表した。
日EU間の個人データ移転については、2018年7月17日に、日EU間の相互の円滑な個人データ移転を図る枠組み構築に係る最終合意が行われ、また、個人情報委は、同年9月に「個人情報の保護に関する法律に係るEU域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」を策定している。EU側での十分性認定の手続完了が待たれるところであるが、仮に日EU間の相互の円滑な個人データ移転の枠組が発効したとしても、「ノー・ディール」となる場合には、日英間の個人データ移転について日EU間の個人データ移転の枠組そのものが活用できなくなることが見込まれる。
今後の離脱協定に関する帰結や日英間の円滑な個人データの移転を確保のための枠組の構築の有無・内容に関する動向には注意が必要である。
「ノー・ディール」となる可能性があるケース
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