SH5419 ドイツ付加価値税法と消費税法――第七話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/04/23)

組織法務監査・会計・税務

ドイツ付加価値税法と消費税法
第七話 納税義務の拡大――責任の規定と前段階税額控除の否認規定

石 川   紀

 

付録 ドイツ付加価値税法翻訳 石川 紀(2024/11/05)
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ドイツ付加価値税法と消費税法――第七話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/04/23)

 

はじめに

 EU型付加価値税の問題は、前段階の納税者が付加価値税を納税しなくとも、次の段階では前段階税額控除が認められるために税収の欠缺が生じやすいということにある。これは悪意で行われることもあれば、悪意なくして、資金繰りから納税できないために生じることもある。前段階税額控除のない売上高税ではこの問題は生じなかった。[1]

 しかし、売上高税ではサプライチェーンにより税負担が異なるとともに、国内外の物品について国境で税負担を等しくするための国境課税が必要となり、現代においてこれを導入すれば、関税と同じような課税となり貿易摩擦へと直結する可能性がある。今更前段階税額控除のない売上高税に戻ることは困難である。[2]

 前段階税額控除の問題に対する一つの回答が、納税義務を財・サービスの提供する事業者から受領者に転換するリバース・チャージである。これはインボイスに、付加価値税は受領者が納税義務を負うと記載する制度である。しかしながら、インボイスに不慣れな事業者が多く、かつデータ様式が区々で紙で処理されることが多いという我が国の現状では、これを実務で円滑に執行することは容易ではない。

 筆者も財務省時代に消費税の多額の滞納に直面した。特に下請けとなっている中小零細業者の滞納事案の処理が難題であった。中小零細業者が前段階の税を滞納し、彼らから財・サービスの提供を受けている大企業は当然、前段階税額控除の適用を受ける権利があるのである。当然滞納処分を進めなければならないが、消費税相当額の預金等があるわけではなく、事業用資産を公売にかければ、事業そのものが継続できなくなるという問題があり、対応に苦慮することが多かった。[3]

 この問題にドイツの付加価値税は60年間直面している。問題への回答の一つがリバース・チャージであるが、筆者の財務省時代はインボイス制度がそもそもないために、インボイスを前提とするリバース・チャージは我が国ではありえない制度であった。

 もう一つの解決法が第二次納税義務の拡大である。第二次納税義務は欧州では責任という制度となっている。欧州ではこの責任の制度を活用し、前段階税の納税がなくとも前段階税額控除が受けられ、多くの税収の損失が生じるという事態に対応している。

 日本において第二次納税義務の拡大には違和感を感じる人も多いとは思われるが、最終消費者が税を負担しているにもかかわらず、国庫に納められることがないという事態を解消するためには第二次納税義務の拡大を図るということも必要な施策なのではないだろうか。

 

1 一般的な責任

 ドイツ付加価値税法にも責任の規定があるが、その前に一般的な規定がある。日本の国税通則法にも第二次納税義務の規定があるが、ドイツの一般租税法は広範に納税義務者以外の第三者の責任について規定している。

 この中に企業グループに関する責任の規定がある。これにより企業グループに属する事業者については自らが納税義務者でない場合であっても、納税義務者の租税債務に対して責任を負うこととされている。

 具体的には下記の規定である。[4]

 

  1.  「73条 租税的一体性に対する責任

     被支配会社は、支配会社の租税のうち、両者の租税的一体性が税務上重要である租税を負担する。支配会社である被支配会社が文1に従って責任を負う場合、その被支配会社も文1に従って連帯して責任を負う。還付請求にかかる請求権は租税と同等とみなされる。

 

 この規定により支配会社の下にある被支配会社が支配会社の租税に対して責任を負うこととなる。しかし、支配会社に関する規定は一般租税法ではなく、付加価値税法に別途の規定があり、2条の事業者の規定において下記のように定められている。

 

  1.  「2条 事業、事業者

    ⑴ 事業者とは、他の規定による法的能力の有無にかかわらず、独立して営業活動又は職業活動を行う者をいう。事業は、事業者の営業活動又は職業活動全体を構成する。営業活動又は職業活動とは、利益を得る意図がない場合、又は社団がその構成員に対してのみ行動する場合であっても、収入を得ることを目的とした持続的な活動をいう。

  2. ⑵ 以下の場合、営業活動又は職業活動は、独立して行われるものとはみなされない。

  3.    1. 自然人が、個人として、又は集団として、事業者の指示に従わなければならないような形で事業に組み込まれている場合、

  4.    2. 法人が、実態の全体像(企業グループ)に従って、支配会社の事業に税務的、経済的、組織的に統合されている場合。企業グループの効果は、ドイツに所在する企業のグループの内部の給付に限定される。これらのグループは1つの事業として扱われる。支配会社が海外に経営拠点を置いている場合、ドイツにある会社の経済的に最も重要な部分が事業者とみなされる。

  5. ⑶ (廃止)

 

 この2項の規定があるため、個人事業者だけでなく、法人についても、従属性がある場合には、支配的な立場にある法人が付加価値税の納税義務を負うこととなる。しかし、この支配的な立場にある納税義務者が資産を下位の法人に移転し、徴収を困難とすることが考えられるため、上記の一般租税法の規定がある。付加価値税法の規定と一般租税法の規定をあわせて適用されるため、付加価値税に関してはグループ全体が責任を負うこととなる。

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(いしかわ・おさむ)

亜細亜大学経済学部 特任教授
1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランクフルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。2025年4月から亜細亜大学経済学部で教鞭をとる。

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