◇SH2191◇経産省、No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート 山田祐大(2018/11/14)

未分類

経産省、No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 祐 大

 

 経産省は、平成30年11月1日、サービス産業の高付加価値化に向けた外部環境整備等に関する有識者勉強会(平成29年度同省委託調査事業)が、飲食店における無断キャンセルへの対策をまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート[1]」(以下、「本レポート」という。)を発表した旨のリリースをした。

 本レポートは、客(消費者)が飲食店を予約したにもかかわらず、予約日時になってもキャンセルする旨の連絡がなく来店しないことを「No show」と定義付け、No show及び予約日時直前のキャンセル(以下、まとめて「No show問題」という。)の解決は、飲食店のみならず、消費者の利益向上につながると報告している(本レポートの要旨は本稿末尾の図のとおりである。)。

 そこで、本稿では、本レポートの内容を敷衍しつつNo show問題のうち、特に、飲食店の客に対する損害賠償請求について検討したい。

 飲食店がNo showにより損害が生じたことを理由に客に対して損害賠償請求をする法的根拠は、予約時に飲食店と客との間で契約が成立したといえる場合には、債務(契約)不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)が、契約が成立したとはいえない場合には、不法行為に基づく損害賠償請求(同法709条)が考えられる。契約が成立したといえるかは個別のケースごとに異なるが、予約時に契約の内容が確定しているか否かが一つの基準となり得る。したがって、客が来店する日時、席数、料金が明確に決まっていることが多いいわゆる「コース予約」の場合には、契約が成立したといえる場合が多いであろう。

 契約が成立したといえる場合には、飲食店が客に対して事前にキャンセルポリシー(キャンセル料金の発生時期及びその金額を定めたもの)を提示していれば、そこで定めたキャンセル料を損害賠償の予定額又は違約金(同法420条1項)として請求することができる。もっとも、損害賠償の予定額又は違約金の全額について損害賠償請求が必ず認められるわけではない。すなわち、消費者契約法9条1号が契約の解除(キャンセル)に伴う損害賠償予定額又は違約金について、その金額が契約の解除に伴って当該事業者(飲食店)に生ずべき平均的な損害額を超える場合には、平均的な損害額を超える部分は無効となると定めているからである。

 そこで、飲食店は、キャンセルポリシーで定めたキャンセル料金額が平均的な損害額を超えないものであることを合理的に説明できる準備をしておく必要がある。その際には、自身の店舗の収益構造等に基づき、原材料費、食材廃棄費、人件費等から平均的な損害額を算出することとなる。もっとも、No showの場合、損害が発生したと主張するためには、そもそも、キャンセルにより発生した損害を別の客で埋め合わせることが著しく難しい、ということが前提となるであろう。この点、飲食店は、料金が定まったコース予約の場合、コースで提供する料理をあらかじめ調理するなどし、2~3時間などの一定の時間、席を空けておくことになるから、コース予約でNo showとなると当該コース料理を別の客で埋め合わせることが著しく難しいといいやすく、コース料金全額が損害であると主張しやすい。しかしながら、コース予約であっても、例えば、飲料は別の注文客へ転用ができる、人件費は別の客への接客として転用ができる、などともいい得るから、確実にコース料金全額を請求できるとは言い難い。また、同じ店舗であっても、繁忙期、閑散期によって損害額の算定方法が異なる場合もあるかもしれない。そして、損害額の算出の必要性は、個別に損害額を主張・立証する不法行為に基づく損害賠償請求の場合も同様である。

 飲食店の中には、個々のNo showによる損害額自体が多額ではないこと、損害賠償請求に備えた準備の方がコスト大となる可能性があることに加え、リピーターの減少を懸念して損害賠償請求自体をためらうものも多いかもしれない。しかし、本レポートの試算によれば、飲食事業の平均的な営業利益率が2.3%であるところ、No showが飲食業界全体に与えている損害は年間約2,000億円[2]でありこれをなくすことができれば営業利益率を0.8%回復させることができる、とのことであるから、No showの積み重ねが飲食店に与える影響は大きい。また、消費者にとっても、飲食店がNo showによる損害を飲食代金に転嫁することとなれば不利益である。この点、宿泊業界のように、無断キャンセルのみならず当日キャンセルの場合でも宿泊代金全額の支払いを請求される場合があることが社会的に広く認知されていることを考えれば本レポートのように経産省等が支援する形でNo show問題を社会的に認知させる活動をすることは飲食店、消費者にとって有益となる可能性を示しているといえる。

以上

出典:経産省ホームページ (http://www.meti.go.jp/press/2018/11/20181101002/20181101002.html

 



[1] 本レポートの詳細は、http://www.meti.go.jp/press/2018/11/20181101002/20181101002-1.pdfを参照されたい。

[2] 本レポートは、飲食業界の市場規模を25兆円、平均人件費率を37%(平成28年経済産業省企業活動基本調査を基に推計)とし、算出したと報告している。

 

タイトルとURLをコピーしました