SH4624 経産省、「企業買収における行動指針――企業価値の向上と株主利益の確保に向けて――」を公表 辛島聡(2023/09/12)

組織法務M&A・組織再編(買収防衛含む)

経産省、「企業買収における行動指針――企業価値の向上と株主利益の確保に向けて――」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 辛 島   聡

 

1 本指針の意義

 経済産業省は、公正な買収の在り方に関する研究会における議論を経て、2023年8月31日、「企業買収における行動指針」(「本指針」)を公表した。本指針は、経済社会にとって望ましい買収が生じやすくなるために、上場会社の経営支配権[1]取得目的の買収において、買収者、対象会社、売主たる株主等当事者の行動の在り方を中心に、通常のM&A取引における公正なルール形成のための原則及びベストプラクティスを提示するものである[2]

 

2 本指針における3原則

 本指針においては、企業価値[3]ひいては株主共同の利益の確保・向上に資する買収を「望ましい買収」とし(第1原則)、取締役会が買収に応じる場合は、企業価値向上の観点からの買収是非の判断に加え、株主が享受すべき利益[4]を確保する取引条件に向け努力すべきとされる。

 望ましい買収の実現の前提として、経営支配権に関わる事項についての株主の合理的な意思への依拠(第2原則)及びその判断のための買収者・対象会社による有益な情報の提供(第3原則)が要求される。
 上場会社の経営支配権取得の買収は、通常は公開買付けへの応募により株主意思が表明され、その前提として株主の適切な判断のために必要な情報(買収者による公開買付届出書等への適切な記載、対象会社による意見表明等)や時間を確保するための制度的枠組みが構築されている。他方、公開買付けによらない市場内買付け等、制度的枠組みで十分対応できない例外的かつ限定的な場合に、同意なき買収に対する対応方針・対抗措置[5]が用いられることがあり、この場合には、買収への対応方針・対抗措置への賛否を巡り、株主総会における株主意思の確認が基本となる。

 

3 取締役・取締役会の行動規範

 買収提案に対する対象会社の検討フロー例は以下の図のとおりである。

 

(本指針より抜粋)

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(からしま・さとし)

岩田合同法律事務所弁護士。1989年早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録。1997年コロンビア・ロー・スクール修了(LL.M.)。1998年米国NY州弁護士登録。金商法・会社法を中心とした証券業務・企業法務全般を取り扱う。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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経産省、「企業買収における行動指針」を策定
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003.html

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