◇SH2222◇シンガポール:シンガポールにおける新たな投資ファンドストラクチャー(1) 松本岳人(2018/11/30)

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シンガポール:シンガポールにおける新たな投資ファンドストラクチャー

Variable Capital Company(VCC)(その1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

1 はじめに

 2018年10月1日、シンガポールの国会においてVariable Capital Company Act(以下「VCC法」という。)案が可決された。この法律は、新たなファンドストラクチャーであるVariable Capital Company(以下「VCC」という。)の制度を導入し、これまでシンガポール会社法の下で認められる会社形態では実現することができなかった柔軟な会社運営を実現させるものである。VCCは、投資ファンド業界のゲームチェンジャーになりうるものと期待されており、これによってシンガポールのアジア地域における投資ファンドの拠点としての地位をより高めることが意図されている。そこで本稿から2回にわたりVCC制度の概要について紹介することとしたい。

 

2 VCC法制定の背景

 シンガポールは既にアジア地域のファンドマネジメントの拠点として認知されており、2017年末時点で約3.3兆シンガポールドル(約267兆円[1])もの運用資産(AUM)金額を誇っており、過去5年間でも年率15%ほどの増加傾向にある。しかしながら、シンガポールでマネジメントされているファンドであっても、ファンド自体はルクセンブルグやケイマン諸島で設立された法人であることも珍しくない。

 また、投資ファンドのストラクチャーとしては、会社形態、信託形態、組合形態など様々な形態が存在するものの、シンガポールにおいては会社形態の投資ファンドストラクチャーが採用されるのは一般的ではなかった。その理由の一つが、シンガポールの会社法上の制約により、配当や資本の減少が制限され、会社運営の柔軟性に欠ける点が指摘されていた。そこで、アイルランドやルクセンブルグといった世界的な有名な他の投資ファンド拠点の制度も参考に制度設計を行い、シンガポールに籍を置く会社形態の投資ファンドを導入するのがVCCの制度である。

 

3 VCCの主な特徴

(1) 配当及び資本の減少の柔軟性

 シンガポール会社法上の会社形態としてはcompany limited by sharesという会社形態が一般的であるが、当該会社の配当は会社の利益(profit)からのみ実施することができる。利益の額を超えて金銭を分配するためには減資の手続が必要となるため、株主総会の決議を経て、債権者に異議を述べる期間(6週間)を付与するなどの手続を経て実施する必要がある。一方、VCCについては、利益のほか資本から配当を実施することも認められ、資本の減少についても投資家の承認を経ることなく実施することが認められる。

 ただし、投資家の利益を保護するために、VCCの出資持分はVCCの純資産価値に基づいて発行又は償還される必要があるものとされている。

(2) アンブレラファンドストラクチャー

 VCCは単独の投資ファンドとして設立することもできるが、その傘下に複数のサブファンドを抱えるアンブレラファンドとして活用することも期待されている。アンブレラファンドの場合には、取締役のほか、ファンド・マネージャー、カストディアン、会計監査人、事務代行業者などのサービスプロバイダーを共通化することにより、運用コストを低減することが期待できる。また、投資ファンドに認められる税の軽減措置の適用要件としての最低投資額の基準などを個々のサブファンドではなく、アンブレラファンドのVCCレベルで充足することで足りるといったメリットも期待されている。

 ただし、VCCの中にサブファンドを組成した場合でも、サブファンドに新たな法人格が付与されるものではなく、法人格はあくまでVCC1つである。そのため、サブファンド間で資産が混同されるリスク(コミングルリスク)を回避するために、VCCにはサブファンド間の資産と負債は分別して管理する義務が課せられる。また、各サブファンドの清算は別々になされることとされている。

(第2稿に続く)

 


[1] 1シンガポールドルを81円として換算。

 

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