シンガポール:改正雇用法成立へ(下)
――管理職への適用拡大――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
前回、「SH2261 シンガポール:改正雇用法成立へ――管理職への適用拡大(上)」の中で、本年11月に改正された改正雇用法のうち、主要規定の管理職への適用拡大を紹介した。本稿は、その続編として、非単純労働者の時間外手当計算の上限撤廃、及び雇用苦情解決機関の管轄拡大を紹介する。
2 主な改正事項の概要
(3) 非単純労働者の時間外手当計算の上限撤廃
現行法は、使用者側の経済的負担にも配慮し、非単純労働者の時間外手当計算の基礎となる月額賃金ベースに2,250シンガポールドルの上限を設定しているが、改正案は当該上限を撤廃する。その結果、改正雇用法では、使用者が支払義務を負う非単純労働者の1時間当たり時間外手当は、以下のように算出されることになる(なお、以下いずれの例もフルタイム労働、給与月額払、雇用条件に関する別途の合意なしを前提としている)。
月額基本給 | 時間外手当/時間 | ||
【現行法】 | 【改正雇用法】 | ||
例1 | S$2,250 | {12 × S$2,250/(52×44)}× 1.5 | |
例2 | S$2,400 | {12 × S$2,250/(52×44) }× 1.5 | {12 × S$2,400/(52×44) }× 1.5 |
例3 | S$2,600 | 支払義務なし | {12 × S$2,600/(52×44)}× 1.5 |
(4) 雇用苦情解決機関の管轄拡大
現行法上、原則20,000シンガポールドル以下の所定の法令又は契約に基づく金銭支払いに関する紛争は、従業員側からの申立に基づく三者間紛争処理機関(Tripartite Alliance for Dispute Management)での調停が不調に終わった場合、雇用苦情解決機関(Employment Claims Tribunal)での解決が予定されている。他方、所定の不当解雇に関する紛争については、人材省(Ministry of Manpower)への不服申立に基づく決定を通じた解決が予定されている。これに対し、改正雇用法は、雇用関連紛争窓口の一元化という観点から、所定の金銭支払いに関する紛争に加え、不当解雇に関する紛争についても雇用苦情解決機関に管轄を認めることとしている。
おわりに
雇用法所定の条件よりも雇用契約で従業員に不利な条項を定めると、その限度で違法かつ無効となり、またかかる雇用契約を締結した使用者は、刑事罰の制裁を受けることになる。改正雇用法は従前よりも従業員保護を厚くするものであることから、事業者は改正雇用法の施行までに就業規則等の見直し要否を確認し、必要に応じその改定等の準備をすることによって法令遵守に努めることが重要であろう。