中国:外商投資法(草案)の公布(中編)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
本稿と次稿で、2018年12月26日に公布された外商投資法(草案)に関する重要なポイントを紹介する。
外商投資の定義(第二条)
外商投資に関する定義規定は、外国投資法(パブリックコメント版)と比較して大幅に簡素化されている。
- 第二条
- 中華人民共和国国内(以下「中国国内」と略称する)における外商投資に本法を適用する。
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本法において外商投資とは、外国の自然人、企業及びその他の組織(以下「外国投資者」という。)が中国国内において直接的又は間接的に投資活動を行うことをいい、以下の状況を含む。
- (一) 外国投資者が中国国内において単独又はその他の投資者とともに新規プロジェクに投資し、外商投資企業を設立し又は投資を追加すること
- (二) 外国投資者が買収方式によって中国国内企業の株式、出資持分、財産持分又はその他これらに類する権益を取得すること
- (三) 外国投資者が法律、行政法規又は国務院の規定するその他の方式にて中国国内に投資すること
- 本法において外商投資企業とは、全部又は一部について外国投資者が投資し、かつ中国法律により中国国内において登記登録して設立された企業をいう。
外国投資法(パブリックコメント版)においては、契約関係等を通じて外国の企業に実質的に支配される国内企業も「外国投資者」に含むとされ、外資による実質的な支配も外商投資の一形態であることが明確化されていた。このため、いわゆるVIEスキーム[1]も外国投資として規制されることになる点が大きな話題となっていた。これに対し、外商投資法(草案)では、実質支配基準を採用しておらず、VIEに関する規定も削除されている。この変更に関する公式の説明はないが、VIEスキームは海外株式市場に上場する企業等に広く採用されているところ、政府として海外からの投資を促進保護するという姿勢を示す観点から、これを一律に規制するのではなく、外商投資法の枠外の個別法規で規制するという方針に転換したものと考えられる。現に、2018年10月以降に相次ぎ公布された司法部による条例や国務院による通知においては、民間教育や幼稚園事業に関し、VIEスキームを利用して外資が契約により支配することを明示的に禁止しており、今後も規制が必要な事業領域において同様の対応がなされる可能性が高い。
外資参入時の内国民待遇とネガティブリストによる管理制度の実施(第四条、第二十七条)
外資参入に際して、内国民待遇に加えて外資向けのネガティブリストを適用する管理制度を実行することが規定されている。
- 第四条
- 国家は外商投資に対して参入前の国民待遇にネガティブリストを加える管理制度を実行する。中華人民共和国が締結し又は参加する国際条約、協定において外国投資者の待遇に対する別段の定めがある場合にその定めに従う。
- 前項においてネガティブリストとは、国家が規定する特定分野において外商投資に対して実施する参入特別管理措置をいう。国務院はネガティブリストを公布し、又はその公布を批准する。
外資参入時の内国民待遇に関連して内外資の区別なく適用されるものとして、2018年12月25 日に国家発展改革委員会と商務省から「市場参入ネガティブリスト(2018 年版)」が公布されている。当該リストは、「参入禁止類」と「参入許可類」で構成されるが、規制項目数は大幅に減少している。これに加え、外商投資企業に対しては、「外商投資参入特別管理措置」が適用されることになる。さらに、全国12 カ所に設置される自由貿易試験区(FTZ)では「自由貿易試験区外商投資参入特別管理措置」も存在し、外資企業に対しては、重層的に規定が適用される構成となっている。
(後編へ続く)
[1] VIE(Variable Interest Entities)スキームとは、株式保有という方式ではなく、各種の契約を通じて中国国内の事業運営実態を支配するスキームを指し、外商投資が禁止又は制限される通信事業や民間教育事業の領域における多くの中国国内企業が、海外の株式市場への上場や資金調達を目的として利用している。