シンガポール:ギャンブル(賭博)規制の全面的見直し(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
⑶ ギャンブル要素のあるゲーム
上記の通り、ギャンブルとギャンブル要素のあるゲームとの境界は不明瞭になってきており、その対応方針が定められている。
(a) 例えば、ミステリーボックス(中身が事前にわからずランダムで賞品を獲得する福袋のようなもの)は宝くじに似ており、特にスマートフォンやゲーム機などの高額商品のように現金と容易に交換できる可能性のあるものは、その商品の価値が高まるに伴い、射幸性が高まる。また、アーケードゲームやクレーンゲームは、近年、高額商品を提供するものが増え、これらのゲームが偶然の要素を含むことと相まって、これらのゲームの操作がギャンブルに類似するものとして懸念されてきた。これらに対応するために、MHAは調査結果を踏まえ、商品の金額の上限を100シンガポールドルとすることを提案している。かかる上限設定は、事業者を過剰に規制することなく、ユーザーをこれらのゲームに誘引するのに十分なものである一方、ギャンブル行為による社会的問題を引き起こさないものとしてバランスの取られたものであるとの説明がなされている。
(b) オンラインゲームにおいて、ルートボックス(アイテムをランダムに獲得できるいわゆるガチャの仕組み)など、ギャンブル要素が含まれることは一般的になってきている。この点、新法案の適用を受ける行為である「ギャンブル(gambling)」の定義の中には、「ゲーム活動を行うこと(engaging in gaming activity)」が含まれており、それは、運が左右するゲームをプレイし、それによって金銭、金銭と同等のもの又はその他価値のあるものを獲得するチャンスを得ることを意味するとされている。したがって、ギャンブル要素を伴うゲーム(例えば、ルートボックスなど)について、ゲーム内の賞品をゲーム外の現実世界において金銭又はその他価値のあるものと交換することができるようなスキームが採られている場合、上記の「gambling」の定義に該当し、一定の適用除外に該当しない限り、新法案の規律の適用を受ける可能性がある。他方で、譲渡可能なバーチャル・アイテムをそのゲームプレイの文脈において取得・保持することについて許容する条件を定めることも同時に提案されている。
⑷ ライセンス制度・クラスライセンス制度の導入
新法案において、主要なギャンブル商品について、ライセンス制による規律が採用されている。また、リスクの低いギャンブル商品(例えば、ミステリーボックス、ギャンブル要素を含むオンラインゲーム、ビジネス販促における景品くじなど)については、クラスライセンス制度が導入され、当該商品を提供する事業者は、一定の期間・条件の範囲内で当該ギャンブル商品を提供する場合には個別にライセンス申請をする必要はないとされている。例えば、上記(3)(a)にも関連するが、小売業者が販売するミステリーボックスにクラスライセンスを課し、賞品の小売価格の上限を100シンガポールドルに制限するなどの条件が付されることが想定されている。なお、クラスライセンス事業ごとの条件の詳細については、今後公表される予定である。
⑸ 広告・宣伝規制
新法案では、全ての形態のギャンブル行為(オンラインのものも含む)に関する統一的な広告・宣伝規制を設けることが提案されている。
⑹ ギャンブル規制に関する罰則
ギャンブル規制の罰則は3段階の構造となっており、違法なギャンブルの運営事業者の責任が最も重く、次いで、違法なギャンブルを容易にするエージェント、ギャンブル参加者の順で罪が軽くなっていくように設計されている。
⑺ ギャンブル規制当局の統一
これまで、シンガポールにおけるギャンブル行為は、その類型毎に複数の規制当局により縦割り的に管轄されていた。この点、新法案とともに、ギャンブル規制当局法案(Gambling Regulatory Authority of Singapore Bill)も議会審議に提出されており、これにより、シンガポールのギャンブル業界全体を統一的に管轄するギャンブル規制当局(Gambling Regulatory Authority)が新たに設立され、最新技術や世界のトレンドを先取りし、新たなビジネスモデルに対応できる包括的かつ一貫性のある規制・監督アプローチを取ることが目標として掲げられている。
5 おわりに
かかる新法案は現在議会の審議中であり、法案の成立・施行の具体的な時期は未定であるが、今後の動向に注目したい。
以 上
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(さかい・よしひこ)
2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。
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