◇SH2289◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(133)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑤ 岩倉秀雄(2019/01/22)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(133)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑤―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、準備委員会で検討された営業、生産、ロジスティクス戦略の課題について述べた。

 統合会社の営業戦略の課題は、3社の売り場が1つに集約されること、各社の販売チャネル・営業方法が異なること、新たに他社商品の知識を覚える必要があること等から、①売場効率の向上、②類似商品のアイテムカットと売れ筋商品への絞りこみ、③牛乳の新ブランドの育成と既存ブランドの位置付け、④プライベートブランドや海外企業との提携の取り扱い、⑤直取引と販売店や卸への対応方法、⑥新チャネルに対する営業戦略の設定と役割分担、⑦営業マン教育等多岐にわたった。

 特に3社合計3,000アイテムをどう絞り込むかが重要課題であったが、営業部門はこれまでの顧客の要望に応えようとし、大幅削減を主張するロジスティクス部門と足並みが揃わなかった。

 統合会社の生産体制は、直営15工場体制(雪印乳業10工場、全農直販3工場、ジャパンミルクネット2工場)とし、雪印乳業の倉敷工場、ジャパンミルクネットの神戸工場、全農直販の神奈川中酪工場は閉鎖することとした。

 工場の設備・技術・物流・原材料へのアクセス・受委託関係等を踏まえた最適組み合わせと、円滑な工場閉鎖が重要課題であった。

 ロジスティクスの再編・合理化は、新会社の黒字化の目玉の1つで、「物流コストの最小化、流通品質確保、顧客サービス維持・向上」を基本方針とし、出荷拠点を3社合計64拠点から31拠点に絞った。

 また、現状の品目数では保管面積、受払い管理等で障害が発生する可能性があることから大幅品目削減を主張して関係部門と協議を重ね1,914品目まで削減したが、実務上の障害を考慮して更なる削減を主張したものの、これ以上の削減は統合にネガティブなイメージを与える等の理由で、受け容れられなかった。

 今回は、商品開発戦略について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス⑤:事業戦略の検討②】

1. 商品開発戦略

 新会社は3社統合の会社として市場や消費者の注目を集めており、商品開発は、売上や利益確保の面ばかりでなく、新会社の企業理念を消費者に訴求し、認知度を高めるという点で極めて重要であった。

 新会社は経営が軌道に乗るまでは商品開発の基盤となる基礎研究に投資する余裕がなく、一方、雪印乳業は永年培った人材と設備を有することから、雪印乳業の技術研究所を有効活用することが合理的であった。

 そこで、当面、自らは市場ニーズに直結する新商品の企画と開発に特化し、基礎的研究は雪印乳業の技術研究所に委託し委託料を支払う方式とした。

 その際、委託研究を円滑に進めるために、「研究開発運営協議会」を設け、雪印乳業技術研究所と委託研究テーマの設定・進捗状況、基礎研究テーマ及び研究所の運営等に関する議題について定期的に議論し密接な意見交換と情報共有を行うこととした。

 なお、新会社の経営が軌道に乗った後には、雪印乳業と同研究所を共同経営することも視野に入れて、その方法についても今後の検討課題とすることを確認した。

 

2. 工業所有権の取り扱い

 会社設立前の工業所有権の取り扱いについては、共同会社分割計画書の「承継する権利義務」に準拠するとともに、新会社設立後の工業所有権については原則として新会社に帰属するとした。

 なお、委託研究過程で生まれる知的財産権の取り扱いについては、「研究委託契約書」に明記することとした。

 

3. メグミルク牛乳の開発

 新会社は、3社ブランドの商品を併売各カテゴリーの売れ筋商品に「選択と集中」を行うことにより売り上げと利益の確保を意図したマルチブランド政策を基本としていたが、牛乳等主力商品については、新たにメグミルクブランドの商品を投入することにより新会社の理念を具現化し消費者と取引先の理解と支持を獲得する必要があった。

 特に、最も差別化の難しい「牛乳」については、3社ともこれまでそれぞれがブランドを確立するために相当の資源を投入し消費者の認知度を高めてきてはいたが、新会社の理念を体現した新ブランド牛乳を開発し確立することが急務であった。

 そこで、新ブランド牛乳を開発するに当たり、消費者がどのような牛乳を求めているのかを把握するために、グループインタビューとインターネットによる牛乳の市場調査(平成14年7月)を行ない、8月30日開催の第2回経営協議会に「牛乳市場調査結果」を報告した。

 その結果、これからの牛乳に大切な要素として、「安全性・自然の証明がある」、「飲んで安心な飲料の証明がある」、「搾乳方法・流通管理がしっかりしている」、「生産地・氏素性が明確である」、「飼育方法・飼料が明確である」等があげられた。

 これを踏まえ、商品開発研究部会から、新ブランド牛乳は「成分無調整」、「製造年月日表示」、「取扱い情報の公開」、「鮮度管理の徹底」を追求する方向が必要であり、具体的な方向としては、「製造年月日を表示する」、「商品のトレーサビリティを実現し、順次生産、流通、販売の各過程の情報を公開する」、「飼育方法、搾乳方法等に関する知識の普及や情報を公開していく」という提案を、第2回経営協議会においておおむね了承された。

 しかし、製造年月日の表示については影響が大きいことから行政や団体等関係方面との調整を経て決めることとした。

 なお、メグミルク牛乳の仕様は次の通りとした。

  1. ・ 成分無調整牛乳とする。
  2. ・ 遮光性容器を用いる
  3. ・ 製造年月日がわかるようにする。(調整の結果、製造年月日を直接表示せずカートンの型等に、賞味期限表示の○○前に製造しましたと表示する。)
  4. ・ 品質検査方法を公開する。
  5. ・ 中長期の取り組みとして原料生乳情報を把握し履歴を開示する。

 次回は、酪農・資材の調達と品質保証体制について考察する。

 

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