コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(135)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑦―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、酪農・資材の調達と品質保証体制について述べた。
酪農・資材調達の考え方は、各社の従来の方法にとらわれることなく、相互利益購買、安定供給、品質の安定を基本方針とした。
乳価は、各社の指定団体別または県(指定団体支所)別設定を、統一した。
原料果汁は、一元供給のリスク回避、収穫時期相違産地の有効活用等のために複数産地から購入することを基本とし、国産果汁については全農農産部(当時)と協力することとした。
会社設立の経緯から考えて、新会社の品質保証体制の確立と信頼獲得は、最重要テーマの一つであることから、品質保証部を社長(後に代表取締役専務)直轄の組織とし、品質保証の最高責任者は社長であるとした。
品質保証方針を、「お客様の声を聴き、法令・社内基準遵守の企業倫理のもと、満足と信頼いただける品質の実現を目指し、お客様第一主義を実践します。」と定め、その仕組みは、HACCPを基本とし①お客様の声の傾聴と実現、②出荷体制と検査体制の確立、③トレーサビリティの確立、④情報開示、⑤品質監査の充実、⑥品質管理教育の徹底、⑦お客様苦情・重大化予測苦情の対応体制の設定等を施策とするもので、ミルクコミュニティ品質システム(MCQS)と名付けた。
今回は、広報・CS(顧客サービス・お客様相談)体制について考察する。(『日本ミルクコミュニティ史』146頁~149頁)
【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス⑦:広報・CS体制】
広報およびCS(顧客サービス・お客様相談)のあり方は、設立準備委員会総務・広報部会とCS(顧客サービス・相談)部会が中心となり検討した。
新会社のコミュニケーション部は、①ブランドのコミュニケーション政策(含デザイン・広告宣伝)、②組織内外への広報、③消費者対応窓口機能とミルクコミュニティ委員会の事務局機能を併せ持つこととなった。
不祥事を契機に設立された市乳統合会社にとって、コミュニケーション活動は、社会との良好な関係を構築するために重要であり、消費者からの苦情が場合によっては重大事故に発展する可能性を持つことや危機が発生した場合にはメディア対応の窓口を一手に引き受ける必要があることなどから、極めて重要であり、特に直接消費者の苦情や問い合わせに対応するお客様センターのあり方については慎重に検討された。
なお、新会社は認知度の向上が重要であることから、2003年1月1日の会社設立に当たり、スタートダッシュキャンペーンとコミュニケーション施策を展開し、組織、ブランド、主要商品の広告・宣伝を行った。[1]
1. 新会社のCS構想
(1) 基本方針
- ① 企業理念体系の全般を通して、「お客様第一」、「お客様優先」の精神を貫くCS経営を実践していくものとする。
- ② CSは一部署のみが行なうのではなく、経営層自らが主導し、全役職員によって実践される。
- ③ お客様との接点の行動・情報は経営の根幹を支えるものであり、「お客様センター」は自社独自で運営する。
- ④ コミュニケーション部お客様センターが、全社のCS経営を推進する部署であると位置づけ、計画的に全社にCS経営の重要性を啓蒙、浸透し、CS経営を実現していく。
<お客様センターの位置づけ>
お客様センター=「お客様と双方向のコミュニケーションを実践する場」 =「企業の考え方を具体的に示す場」 =「お客様から評価される場」 =「お客様の生の声が聴ける場」 =「全社のCS経営を啓蒙、推進する場」 =「マーケティングセンター」 =「プロフィットセンター」 |
(2) 組織・機構
- ① コミュニケーション部は社長直轄の独立部署とする。
- ② まずは、経営層が、継続的・積極的にお客様の声に耳を傾ける仕組みを構築する。
-
例)
・ 役員ミーティングの議題としてCSの声を取り上げる
・ 役員自らがフリーダイヤルの生の声を受ける習慣を付ける - ③ 経営者・管理職のジョブローテーションに取り込む重要な部署と位置づける。
- ④ 本社スタッフに計画的に研修を行ない、定期的又は不定期に拘らずフリーダイヤル対応を行なう。
- ⑤ お客様センター運営のポイントは、「日曜・祝日を除く9時から17時開設」、「事業部にも地域お客様センターを設置する」、「1次受付は、専門業者を活用」、「苦情対応基本フローの作成と全ての対応行動のデータベース化」とした。
2. ミルクコミュニティ委員会の設置と運営
ミルクコミュニティ委員会は、以下の趣旨に基づき設置した。
- ・ 会社の掲げる企業理念を具現化する過程で社会の声を十分に反映した企業活動を推進するため、取締役会への助言、意見交換の場として設置する。
- ・ ミルクコミュニティ委員会で議論された内容については、積極的に社内外に情報発信し経営の透明性を確保する。
- ・ 委員に、新会社の経営姿勢を理解し情報発信のオピニオンリーーダーとしての役割を期待する。
- ・ ミルクコミュニティ委員会を通じて社会との適合およびステークホルダーとの有機的関係の構築を図る。
委員は、お客様、生産者、牛乳販売店、学識経験者、他社経営者から10名程度選出し、社外から招聘する非常勤取締役は委員を兼任するとした。
また、その任期は、取締役任期に準ずる2年間とし、開催頻度は年4回程度、議題は、経営方針、社外との関係構築のあり方、ブランド戦略、品質保証の仕組み、商品開発の方向性等、社外の意見を反映させるべき経営上の重要課題を選定することとした。
次回は、情報システムについて考察する。
[1]広告宣伝は、会社の設立告知(第1期)、「メグミルク牛乳」への期待感の醸成(第2期)、発売後の価値訴求とイメージの確立(第3期)に分けて実施した。具体的には、全国紙への広告掲載やTVCMの実施、新社長インタビュー、商品概要記者発表、得意先招待マーケティング発表会(東京、大阪)、店頭でのサンプリングと試飲試食等、幅広く実施した。