◇SH2355◇中国:市場管理監督総局体制下における初の問題解消措置付き経営統合案件(下) 鹿はせる(2019/02/21)

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中国:市場管理監督総局体制下における初の問題解消措置付き経営統合案件(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿 は せ る

 

3. 競争分析

(2) 当事会社の主張に対するSAMRの判断

 当事会社が行った主張のうち、SAMRは、水平的な重複関係が少ないとの主張については、当事会社がいずれも相手方の主力商品役務の研究開発に力を入れていることを認定し(すなわち、近年、エシロールは光学フレーム及びサングラス、ルックスオティカは光学レンズの研究開発にそれぞれ多大な資金を投入していたことがた)、当事会社は将来において互いにとって重要な競争相手になる可能性があったところ、本件統合によりその可能性が失われたことが実質的にみて市場全体の競争に影響を与えるとしている。

 また、光学フレームのシェアが比較的低いとの主張については、メガネは二つの光学レンズと一つの光学フレームの組み合わせによって製造されるところ、当事会社はハイ・ミドルエンドの光学レンズとローエンドの光学フレーム、又はその逆の組み合わせ等を行うことができること、小売店は通常光学レンズ、光学フレーム及びサングラスを同時に仕入れることから、統合後当事会社はそれぞれのラインアップから多様な組み合わせを行うことで自身の弱点を補完することができ、他の競争者との関係で優位に立つことになるとそれぞれ認定し、依然として競争を制限するおそれがあると結論づけている。

 さらに、メガネ製品の小売市場において、ルックスオティカは2017年から中国において「STARS計画」と呼ばれる、それぞれの小売店の商業イメージ及び潜在的販売能力に合わせた商品自動補充販売システムを採用しており、当該システムを採用しない小売店に対しては、自社ブランドのメガネを供給しないとしていたが、当該システムは小売店にとって不合理な取引条件であること、メガネ小売店は通常小規模であることから、ブランド力を有する当事会社に対する交渉力に乏しく、結果的に末端消費者の利益を害するおそれがあるとして、競争制限効果ないしそのおそれを認めている。

 

4. 問題解消措置

 SAMRは、当事会社が提出した提案に基づき、6項目の問題解消措置を命じている。6項目の概要はそれぞれ、①正当な理由なくメガネ製品の抱き合わせ販売を行わず、不合理な取引条件をつけないこと、②上記のSTARS計画と呼ばれる商品自動補充システムの採否をメガネ小売店の自主選択に委ねること、③メガネ小売店に対して排他的条件を付さないこと、④取引相手に対して差別的待遇を行わないこと、⑤正当な理由なくコスト割れのメガネ製品を販売しないこと、⑥中国業務の統合については、契約締結日から10日以内にSAMRに報告することである。

 

5. コメント

 本件では問題解消措置付きで統合が認められたが、指摘すべき点として、いずれの問題解消措置も(株式や資産の売却を伴う構造的措置ではなく)いわゆる行動的措置であり、更に、STARS計画に具体的に触れた②と単に報告を求める⑥以外は、いずれも本来中国独禁法17条で禁じられている「支配的地位の濫用行為」(概ね、日本独禁法の不公正な取引方法に相当する)をしないことを改めて命じたに過ぎない。

 すなわち、問題解消措置のうち、①の抱き合わせ販売は中国独禁法17条5号、③の取引先に対する排他的条件の禁止は17条4号、④の取引先に対する差別的待遇の禁止は17条6号、⑤のコスト割れの不当廉売は17条2号でそれぞれ禁止されている。また、②のSTARS計画の採否を小売店舗の選択に委ねる点についても、競争分析での認定に従えば、同計画の強制的採用は取引相手に対する不合理な取引条件であると解されるため、強制的採用の禁止を命じることは①の不合理な取引条件の禁止に含まれており、②の命令はその具体化と考えられる。

 これらの点を考慮すると、問題解消措置とは言いながら、本件についてSAMRが行った判断は、統合後の当事会社が中国市場において「支配的地位」を有することを認定した上で、その濫用行為を禁じたことに留まる。おそらく、本来水平的重複関係に乏しい両者の統合によって生ずる競争制限効果の一部につき、将来の抽象的なおそれのレベルでしか認定できなかったためではないかと思われる(本件では市場画定を行った7つの市場のうち6つの市場における競争制限効果を認めているが、審査理由中で市場シェアが示されたのはハイ・ミドルエンドとローエンドのメガネレンズ市場及びハイエンドのサングラス市場の3つだけである。また、本件統合による市場シェアの増分については、認定を行っていない)。逆にいえば、SAMRでは、少なくとも現時点においては、(日本の公取委の企業結合ガイドライン第4-1-(3)が採用するような)当事会社の水平的重複が少なく、統合後の市場シェアの増加分が少ないこともってセーフハーバーとする考え方を必ずしも採用していないと思われる。

 本件には、上記のほかも、同一製品の品質による市場細分化を初めて行うなど、SAMRによる判断の今後の方向性を示すと思われる興味深い認定が多数含まれているので、日系企業にとっても参考になると思われる。

以上

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